第153話

 「一撃入れたくらいで勝った気になって好き勝手言ってぇ……、思い知らせてあげる」

 

 口喧嘩はもういいのか、メンテが左手をすっと前に――つまりこちらに――突き出してくる。その手は半開き状態で何も持ってはおらず、強いて言えば細かい装飾の施された緑の指輪が中指に目立つくらいだ。

 指輪……かあ。そういえば、かつて戦ったことのある盗賊団の頭領が、厄介な古代魔法道具の指輪を持っていたなあ……。

 

 「ルッスリアぁ!」

 「剣が!?」「来るぞ!」「お気を付けを!」

 

 って、やっぱり魔法道具か! 名前らしきものの宣言に続いて、メンテの周囲には空気から滲みだしてくるように三本の刃が出現した。思わず剣とは叫んじゃったけど、柄はなくてただの刃。それが小さく揺れながら浮く様は、明確にこちらを威嚇する意志を感じる。

 意志……ただの物に過ぎないはずの刃からそれを感じる。というところで、もうあれの用途は想像がつく。

 

 「来たよ!」

 

 振りかぶるような前触れもなく、射出といった感じで三本の刃がこちらへと飛んでくる。意志持つ武器であろうと予想していたところでの、唐突に無機質な動きに面食らいつつも、身構える。まずは視認できないほどの速さではなかったことに、ほっとしておこう。

 しかしメンテもやはり冒険者。どこの遺跡で見つけてきたかは知らないけど、ライラも警戒していた通り、やっぱりこういう奥の手を隠し持っていたか。これをカウンター気味にとか、混戦の中で突然使われていたら、喰らっていたかもしれないから、意識せずとはいえ向こうから使わせる流れになったのは幸運だった。

 

 「うおおおおぉっ!」

 

 剣だから……という訳ではないだろうけど、“シェイザの絶叫”とともにグスタフが瞬時に前に出て、重厚なロングソードを横に倒して腰の捻りでタメを作るように後ろに引く。いうなればバッターボックスに立つスラッガーの構えだった。

 

 「ぬん!」

 

 そして相手がボールなら間違いなく場外ホームランだったなという勢いで、グスタフの剣が振られた。さっきまでの僕のカバー役から、一瞬にして戦闘態勢に入ったグスタフの剣閃は、豪快な勢いを持つと同時に巧妙でもある。現に今も、その一閃で螺旋を描くように斬りかかってきていた三本の刃をまとめて叩き払っていた。

 

 重厚なロングソードを強烈な勢いで叩きつけられた刃は、見えない持ち主が踏ん張ったかのようにそれほど弾かれはせず、一瞬ふらりとした後ですぐに統制を取り戻す。掻き消えたりしていないし、砕けるどころか欠けてもいないように見える。

 とはいえ、僕らとメンテを繋ぐ線上からは外れ、その“意志”もグスタフを敵と認識してやり返そうと動き始めているようでもある。あれは所詮道具、僕が狙うべきは本体……だよね。

 

 「任せた」

 「ちぇぇいっ!」

 

 走り出した僕の後ろから聞こえた了解の声は次の一撃を振るうための気合いの声。あの魔法道具の刃の強さが正確には不明だけど、三対一で戦うようなものだ。だけど後ろから斬られるなんて心配はなく僕は駆けだしていた。距離を保ちつつもついてくるライラだって同じだろう。

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