第152話

 「あなた転生者なのでしょう? お人形遊びなんかして、どういうつもりなのかしらぁ」

 「……うん?」

 

 思わず首を捻ってしまう。いや、まあメンテの言っていることがわからなかったということじゃない。僕がライラとグスタフと連携をとって戦っていたことに対して、その仲間を“お人形”呼ばわりして侮辱しているってことくらいはわかる。

 だけど、ここにきて僕を怒らせて隙でも窺おうっていうなら、その考えの方がよっぽど侮辱的だし、さっきは逆転の目が見えたとでもいうような笑いっぷりだった。

 自分の数的不利を改めて晒すような言動が、何か窮地を覆す手掛かりになる……訳ないよねぇ。

 

 「あはははっ、本当に何もわかっていないなんて、あなた前世ではよっぽど恵まれたお坊ちゃんだったのかしらぁ?」

 「悪いね、前世のことはよく覚えていない」

 

 続けて投げてこられた言葉に、一応素直に答えてみると、メンテはおやと片眉を上げたようだった。まだその肩は上下していて、さっきのダメージは回復の兆しも見えないけど、表情を動かすくらいの余裕はまだある様子だ。

 というか、この反応ということは、メンテには前世の記憶が詳細にあるっていうことか。別にそれがうらやましいとも思わないけど――僕の場合は思い出してもどうせろくでもないだろうし――人によって前世ってものとの関りにも差があるらしい。まあ、当たり前か。

 

 「曲がりなりにも“一生”を送れば普通は悟るはずだものぉ……信じられるのは自分だけだってぇ。どの世界でだって人間は自分がいっちばんかわいいの。だから追い詰められれば簡単に裏切る。そんなのって時限爆弾を横に置いておくようなものでしょう? 爆弾ていうのは、そうじゃなくて、投げつけて使うものなのよぉ」

 

 なるほど、自分以外は信用できないから、他人は全て使い捨ての道具として扱う、という思想を披露している訳か、このお嬢さんは。いや、冒険者としてそこそこのキャリアがある人間を捕まえて、学園に入学したばかりの僕がそんな風に呼ぶのもあれなんだけど、思わず……ね。

 

 まあちょっと様子をみて、何かを仕掛けてこようとしている訳じゃないのはわかった。いや、仕掛けは当然まだ残しているだろうけど、今のこれは本当に話したいだけだったんだろう。こういう“孤高気取り”特有の、自覚はないけど聞いてくれる相手に話したくて仕方がないってやつだ。

 

 「君の前世はよっぽど恵まれたお嬢さんだったんだろうねぇ」

 

 だからこの辺でいいかと、さっきの言葉をそのまま返してやる。

 

 「はあああぁぁっ!? なんでそうなるのよぅ! 転生してまでお友達探しに躍起になるようなお子様が、適当いってるんじゃないわよぉ!」

 

 わかりやすく激昂してメンテは言い返してくる。その顔の紅潮はダメージや疲労によるものだけではないだろう。

 というか、“お人形”が“お友達”にさりげなく格上げされたな。本音では寂しいのか? どうでもいいけど。

 

 まあ、敵対した以上はなんであれ戦う以外にはないけど、続きをやるまえに僕のロクでもない人生経験から多少のお裾分けでもしておこうか。もしかしたら、こいつにはさらに来世っていうのがあるかもしれない訳だし、冥途の土産っていうのもあながち無駄ではないはずだ。

 

 「だって独りのほうがうまくやっていけたと、死んだ後でも勘違いできるようなぬるい環境にいたんだよね? 同じ勘違いをした前世の僕なんて、追い詰められて囲まれて最後は惨めになぶり殺しさ。数の力程こわいものはないね。だから、僕は仲間を集める。血と痛みで繋がった、理不尽にだって抗える結束を」

 「あなた……さっきは覚えてないって……」

 

 口を開閉しながらメンテがそんなことを言ってくる。この期に及んで微妙に的外れなことを気にする奴だ。…………いや、確かにするっと言葉にしたけど、僕は何を……? 知識的な記憶以外はどれもぼんやりとしているはずなのに、他の転生者と関わって刺激された?

 とはいえ、自分で言ったことを深く掘り下げて考えようとしても、“何の話”をしたのかもうまく思い出せない。まあ、前世の記憶なんてゲーム『学園都市ヴァイス』のことを思い出せるだけで御の字か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る