第149話

 「おらあっ!」

 

 派手に叫びながら拳を振り上げて突撃する。見るからに殴りかかるぞという体勢だ。

 

 「さっきのはもう品切れなのかしらぁ……ヴルカ放出パルティぃ」

 

 やっぱり、露骨に怪しい僕の攻撃に対しても、優越感しかメンテの表情には浮かばない。魔法拳に使用回数――それもかなり少ない――でもあると勝手に思い込んだようだ。対人間戦闘の致命的な経験のなさ。あるいは、理外の技まで使うマエストロとしてはまともな戦闘・・になることなんて、そもそもほぼなかったのかもしれない。

 

 向こうから飛んできた火球との距離が縮まったところで、やはりさっきと同じ技を仕掛けてくる。

 

 「オーセアぁ!」

 

 水塊にぶつかる火球がじゅうと音を立てたか立てないかという間に、それは衝撃となって迫りくる。だけどパターンを変えてくるでもなく、一度見せた技を繰り返すなんていうのは悪手だよ。

 

 「テラ滞留スタレ!」

 

 体にまとう形ではなく、通常の魔法発動。故にその強度は高く、範囲も僕とグスタフを十分に覆う。

 

 「そんなことしてもっ」

 

 岩が砕ける轟音に紛れて、メンテの焦った声が聞こえた。素直に火の魔法や風の魔法だったら、岩の壁を回り込んでダメージを与えられたかもしれない。だけど高威力ではあっても純粋な衝撃波にしてしまっていたために、こうしてうまく防ぎ切られたということくらい、上位の魔法師であるメンテにはわかっているだろう。

 それでも「そんなこと」といったのは、さっき互いに仕掛けた強化火球の魔法と同じと考えたからだろう。純粋な魔法使い同士の戦いでは、放って防いでの消耗戦となるし、それは魔法師であっても普通は変わらない。

 

 そう、純粋な・・・魔法使い同士の戦いでは、ね。

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