第145話
「精々魔力の無駄遣いをすればいいわぁ」
運よく姿を見つけることができたメンテに仕掛けると、そんな風に呟きつつ狙い通りの方向へと走っていった。
最後のは偶然聞こえただけだろうけど、その前にも何やらこっちを挑発するようなことを言っていたから、メンテは自分の方こそ誘い込んでいるという認識なんだろう。
完全に策にはまったと判断して近づいてきたライラとグスタフが僕のすぐ左右に並ぶ。ちらちらとこちらを窺いながら走っていたメンテは少しだけ目を開いて反応したから、僕一人での襲撃だと思い込んでいた様子だ。うまくいかなかった時のために仲間を伏せておくのは普通だろうに。
とはいえ、それでもメンテはもうあの倉庫がある方へと向かって走るしかない。既に一本道になっているし、派手な魔法で跳び上がるような動きをみせれば、僕が見逃さない。あくまでもメンテが自分で狙って行動していると思い込んでいることも、奴の行動を縛っている。
「すごいな、ライラは」
「お褒めいただき、身に余る光栄でございます」
思わず称賛の言葉を口にすると、並走するライラは器用にお辞儀するように身をかがめた。走りながらだというのに、こういう仕草は器用だね。……運動神経はそんな、なのに。
僕の仕掛けから、遅延発動式魔法と風の炸裂弾での追い込み、あれらは全てライラの作戦によるものだ。相手の思考と行動を制限して、ボードゲームのように追い込んでいく戦いはライラの最も得意とするところ……と知ってはいるもののやっぱりたいしたものだと感嘆してしまう。
それに、ユーカから聞き出していたとはいっても、消滅魔法を使わせたことも収穫だった。僕の初撃が不意打ちだったから驚いたんだろうけど、どの程度の魔法パリィを使うのかをこの目で見れたのは大きい。
「……?」
「……」
すらぁっと金属が滑る音がしてライラとは逆側を横目で確認すると、グスタフが走りながら背中の重厚なロングソードを抜いた音だった。それでもペースは落とさないグスタフは無言のまままっすぐと射貫くような視線を走るメンテの背に向けている。
分厚い剣身の獲物を片手に持っても、一切姿勢がぶれないグスタフはさすがだ。そしてそれだけの一流の戦士は、視線や息遣い、走る足音など一挙手一投足全てが武器になる。
現に距離をあけて先行するメンテの動きが明らかにぎこちなくなる。
こっちの人数を読み違えていた時にでも、反応はしても動揺は見せなかったメンテだけど、“鬼の一族”に戦闘態勢で追い立てられるプレッシャーはさすがに堪えているみたいだ。まあ、僕としても気持ちはわかる。過去の世界でグスタフの先祖であるグイドに追いかけ回されて命からがら帰還した経験は、今でも思い返すだけで冷や汗が滲む。
…………考えて見れば、プロタゴとニスタの後ろにいた「お師匠様」ってのがメンテなら、その件の原因もあいつじゃないか。見えない所から陰湿な嫌がらせをしてくれやがって――
「ご主人様、あまり殺気を向けすぎるのはお控えください。予想外の行動をとられる可能性もありますので」
「…………ごめん」
「いっ、いえ! そのような! あたしの方こそ差し出がましいことを申し上げました……」
ライラに謝ると逆にすごく申し訳なさそうにされて、何とも居心地が悪い気分になる。ついでに張り切ってプレッシャーを掛けていたグスタフも、何となくそれを弱めたような雰囲気が隣からしてくる。
これから仕上げっていうところで、肩に力が入るのは良くないよね。リラックスしていこう。もうあいつは詰んでいるんだから。
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