第142話
善は急げか、それか兵は拙速を尊ぶか、どっちでもいいけど懸念はさっさと片付けるに限るということは確かだ。
だから僕は拠点でユーカから色々と聞き出せた後、さっそくグスタフとライラを連れて街中を歩いていた。
サイラとラセツが拠点にユーカの監視と尋問……というか世話係として残っているけど、連れ帰ってからの短時間でもわりと色々と聞けた。まあ、込み入ったことや、長々と語る必要のあることではなかったということもあるけど。
まず結論からいって、黒幕はメンテという人物だ。僕が……その……まあ……なんというか、ちょっとした思い違いでニスタを転生者だと予想していたこともあったけど、どうやらこのメンテこそが転生者であるようだ。
もちろんユーカ本人から“転生者”という言葉が出た訳ではなかったけど、消滅のレテラをユーカやニスタに教えたのはそのメンテであったらしいから、ほぼ確定とみていいだろう。さらにいえば、ウノマギアに過ぎないユーカが消滅を習得できると確信しているような素振りだったというから、それも根拠だ。
僕自身も習得したからわかるけど、消滅は中々にややこしいというか、入り組んだ構造のレテラだ。その仕組みを理解して習得に至れるのはマエストロの中でも上級の実力者に限られるだろう。その一方で、レテラには相性というものもある。僕にとっての風や解析であったり、ニスタの消滅みたいに、妙に使いこなしやすいものというのがあって、時にウノマギアが難しいレテラを習得することもあると聞く。
だけどそんな特殊事例はめったにないから特殊事例な訳で……、試してみようなんて思考には普通ならない。事前にそのウノマギアが消滅のレテラを習得できると知ってでもいない限りは……。
そう、ゲーム『学園都市ヴァイス』の知識のことだ。特殊な魔法パリィが使用可能になる消滅のレテラを習得できた味方キャラクターは主人公のほかに二人。魔法に長けたマエストロである『キサラギ・ボーライ』と、ほぼ純粋な戦士なのになぜか適性のある『ユーカ』だ。
ゲームならともかくこの現実となった世界では、希少なレテラは知識だけでも有用な武器だ。特に使いようによっては格上の魔法使いにでも勝てるようになる消滅なんて極上だし、それはほぼ誰にも存在すら知られていないからこそというものでもある。
習得が叶わなくても教えようとすること自体が情報漏洩につながる。自分に心酔させた双子と、錯乱状態から洗脳したユーカにだったからこそ、大丈夫と踏んで教えたんだろうけど、それでも確信がないなら試すこと自体が不自然だ。
そう考えると、冒険者メンテは転生者で、しかも僕に対して敵意を持っているということで間違いない。ニスタがあの遺跡で機構を発動させる際に口にした「悪役貴族」という言葉も、今にして思えば聞いただけの言葉を深い意味もなく使っていたんだろう。
あとは、そう……メンテは冒険者らしい。かなり有名な存在でもあるそうだけど、ヴァイスの冒険者について特に調べてもこなかった僕には初耳の名前だった。それは同時にゲーム『学園都市ヴァイス』の、少なくとも主要なキャラクターではないことも示す。メインの悪役であった『アル・コレオ』の体である僕のことは、転生者であるメンテは知っているのに、こっちは向こうのことをほぼ何も知らない。その情報による差を埋めるためにも、さすがに単独行動ではなくて、頼りになる前衛のグスタフと、何かあれば思考を回してくれるだろうライラを連れてきた。
今から悠長に向こうのことを調べるというのは……ない。時間を与えれば遺跡の時みたいにゲームの知識で何を仕掛けられるかわかったものじゃないし、ユーカを会話ができる程度に正気に戻して確保したことも、いずれは知られるだろう。
だからこその早速の行動なのだった。今はまず、街中にある冒険者ギルドへと向かっている。メンテの容姿についても大体聞いてきたから、そこで張り込んで尾行し、人目につかないところにきたところで叩く。思えば僕が双子とユーカに立て続けの襲撃を受けたけど、今度はこっちの反撃という訳だ。
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