第141話

 私は魔法の達人にして深淵なる知識の守り手、メンテ。

 この世界のことを、前世でやり込んだゲーム『学園都市ヴァイス』の知識として把握し、ヴァイスの裏側に君臨する魔人。裏社会の住人を自称する思い上がった連中も街にはいるようだが、そいつらだって私が見つけてきたアイテムをちょっと流してやるだけで右往左往する程度だ。

 

 そして私にはもう一つの顔もある。それがここヴァイスの冒険者としてのものだ。未発見の遺跡や遺物、そして様々な魔獣の攻略情報を知っている私にとっては、それらを最も活用しやすい天職といえる。

 

 そんな私としても、何も自重することなく思うままに振舞う……という訳にはいかない。長らく気がかりとなっていたことの一つが、アル・コレオ――ゲーム『学園都市ヴァイス』に登場する悪役貴族の存在だ。

 前世での現実と違い、好きに生きることができたゲーム内での唯一にして最大の障害。攻略のルートによっては時に我慢を強いられる元凶。貴族というだけで何の苦労もなく横暴に振舞う愚者。努力もなしにシナリオの都合で勝手に強くなる卑怯者。そして、何よりも鼻につく、一部のファンに媚びるためにとって付けた不幸話。

 ……なにが、パラディファミリーのドン。なにが、裏社会での“曇らせ”だ。社畜として言葉通りに死ぬほど働かされた私にいわせれば、裏社会だなんて魔法よりもファンタジーだし、主人公が直接関わらない“フレーバーテキスト”で不幸自慢をされても鬱陶しいとしか感じない。

 

 だからアル・コレオを消すために、奴を嫌う主人公を作り上げたキャラクリしたというのに……。どうにも私には育成シミュレーションゲームの腕前はなかったらしい。失敗して怯えるだけの無能が二体出来上がってしまった。

 とはいえ、そこは私のすること。偶然見つけた負傷したユーカの錯乱をうまく誘導して狂戦士を作り上げ、プランBとしてアル・コレオにぶつけることにした。ゲームの通りにユーカが思い込みの激しい馬鹿だったからか、それとも私にそういう才能が実はあったということなのか、前世で興味本位で一読した本のおぼろげな知識だったというのに、あれは見事なくらいに暗殺者として仕上がった。

 おそらく今頃消しにいっている最中であろうアル・コレオのことが終われば、どこかの貴族にでも取り入って暗殺を副業にしようかとも思ってしまうほどだ。

 

 何より私は指示をだすだけだというのがいい。手を汚さないから捕まる心配はないし、もし万が一失敗してあれが敗北しても、暴れる狂人なんてその場で殺されて終わりだろう。万が一のさらに万が一で生きたまま捕らえられたところで、会話できるだけの理性など残っていないという、この都合の良さだ。

 

 とはいえ、そんな安全策など気にする段階は、もっと先のことだろう。あの狂戦士を徹底的に使い潰した頃に考えるようなこと。今はあの目障りなアル・コレオの血で濡れた爪をぶら下げたユーカが返ってくるのを悠然と待つだけ……。

 

 いや、考えるとそわそわとしてきた。そう、我慢して結果を待とうだなんて悪い癖がでてしまっていたかもしれない。

 冒険者ギルドにでも顔を出して、情報が出回ってないか聞いてみよう。馬鹿面をした貴族の子供が、噂の通り魔被害にあって無残な死体となって発見されたという情報を、ね。

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