第140話

 「いやああぁぁぁ!」

 

 それまでどれだけ燃やされても呻くだけだったユーカから、高く弱々しい悲鳴が上がった。

 

 「ふむ」

 「あ、あぁぁ……」

 

 そして火魔法を出すのを止めると、顔を掴んだ手指の隙間から怯えた・・・目を向けてくる。

 やっぱりそうだ、ユーカの人格は壊れていない。何かで抑え込まれているというか、……洗脳?されているような感じだ。

 

 「僕がわかるね?」

 「ぁぁ……ぁぁあ……」

 

 「ないない」言わなくなった代わりに、怯え切っていて言葉も話さない。困ったは困ったけど、確信は深まった。

 しつこいくらいに繰り返し口にしていた「手がない」とか「正義がない」。あれが多分、洗脳のキーワードとして刷り込まれた言葉だ。精神的に限界まで追い込んでから、特定のキーワードを最後の救いのように錯覚させて、それで行動を縛り誘導する。このユーカの場合でいえば、失くした腕を探せば見失った正義も取り戻せるといったところかな?

 前世で何かの本で読んだ記憶がある。いや……誰かに聞いたんだっけな? まあ、それはいいや。

 

 とにかく、どういう経緯で誰にされたのかはわからないけど、あの正義バカだったユーカは危険で狂った通り魔へと仕立て上げられていたってことだ。

 こうなるかどうかっていうのは、正直出たとこ勝負だったけど、火の熱さと息のできない苦しさでとことん追い込んだことで、心を狂わせていたモノを折ることに成功した。

 あとは…………ん?

 

 ――っ

 ――!

 

 遠くから声が近づいてくる。解析は滞留で発動しているから離れた場所の気配は読めないけど、どこかの誰かが騒ぎを――というかユーカの悲鳴を――聞きつけたようだ。

 やっぱり双子が襲い掛かってきた時に、ニスタの方で消滅の副次効果を何らかの形で発動して察知されることを避けていたのかな。以前から色々と器用に消滅を発動させていたっぽいから、おそらくは今回もそうだろう。

 で、そのニスタがこの場からいなくなったから、その効果も徐々に弱まっていた、と。

 

 まあ、いい。

 

 「僕の拠点に連れていく。無理やり声を出せないようにされたくないんだったら、大人しくすることをお勧めするよ」

 

 これからの行動と、注意事項をユーカに笑顔で説明する。もう十分に恐怖は植え付けた。なら怖い顔で凄むよりも、この方がいい。

 

 「……っ」

 

 思惑の通りにユーカは口を引き結んで、小さく首を縦に動かした。ひきつった表情だけどまだその目には剣呑な輝きを宿しているのが見て取れるし、仕草の端々に正気とは程遠いものも感じるけど、意思疎通はできるようだった。うん、自傷しないように制御したとはいえ熱いは熱いのを我慢して、汗をかいて作業した甲斐があったっていうものだよ。

 あとはなるべく人目につかないようにしながら拠点に連れていこう。連れてって……というか、担いだ方が早いか。

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