リヴィラン ～どう進んでも死ぬ予定の悪役貴族、思い出した前世も悪人だった～

第134話

　一応というかなんというか、僕が身につけた戦闘術は特殊なものだ。

　魔法使いは体を鍛えて技を身につける暇があるならレテラについて勉強するものだから、近接戦闘能力を備えた魔法使いというだけでも珍しい。魔法と格闘を同時（・・）に使うなんていうのは、学園の教員でもちょっと見ない。

　急に何が言いたいかというと、さっきのニスタが消滅魔法だけでは防げなかった時点で、警戒くらいはするべきじゃないかなと――

　「うおおおおおっ！　火（ヴルカ）・水（オーセア）・放出（パルティ）っ！」

　――こっちに駆けながら魔法を撃ってきたプロタゴを見て思った。

　確かにプロタゴは授業でも比較的身体能力は高かった。……ニスタと同じ純魔法使いにしては、だけど。なんで格闘もできる僕を相手に、近づこうとするんだよ。

　「消滅（スコンパルサ）」

　「は？」

　一歩踏み出して、プロタゴの熱湯球が到達する前に距離を詰めてから消滅のレテラによる魔法パリィでかき消してやる。

　急に方向転換して横に動こうとしていたプロタゴが、間抜け顔をさらしている。

　さっきは地のレテラで壁を出して熱湯球を防いで見せたから、今度もそうすると予想したんだろう。で、二文字魔法発動で一瞬硬直して、しかも視界が塞がれている間に横へと回り込んで、一か八かの至近距離から魔法をぶちかます、ということでも考えていたんだろうね。

　だけど、こうなってしまっては、プロタゴはただ僕の近くで隙をさらしているだけでしかない。

　「……ぁ……ぅ……しょ、う……めつ？　お師匠様は、ウチ以外にも教えたの……？」

　「ん？」

　ふと、離れた場所でうめき声に混じってそんな言葉が聞こえた。ニスタは辛うじて意識を保っていたらしい。というか、さっきも言っていた気がする……「お師匠様」って。

　「くっそぉぉぅ！」

　一瞬だけ思考に沈んで僕が動きを止めたことで、プロタゴはやぶれかぶれに突撃する決意を固めてしまったらしい。いや、そこはさらなる隙をさらしてでも魔法を撃つ方がマシだと思うんだけど。

　「風（ヴェント）」

　素人丸出しのフォームで殴りかかってくるプロタゴに合わせるように右足を上げて、そこに風の魔法をまとわせる。ちょうど前蹴りの形だけど、本来なら抉り込むようにするはずの足裏をプロタゴの腹にとんと当てるだけにとどめた。

　とはいえ、まとわせた魔法はしっかりと効果を発揮する。

　「どぅっふっ」

　腹に衝撃を受けたプロタゴは息を吹き出し、緑光の風が炸裂した勢いで転がっていく。蹴りと同じように、魔法の威力もわりと加減した。だから戦士じゃないプロタゴでも、まだ人一人を抱えて逃げるくらいの余力は残っているだろう。

　「……地（テラ）」

　転がった先でよたよたと起き上がるプロタゴにもよく見えるように、岩の籠手をまとわせた腕を構えて、いかにも追撃するぞっという姿勢をとる。岩塊と化した腕を叩きつけられれば、まだ動けるプロタゴはともかく、意識はあっても倒れたままのニスタは今度こそ無事では済まないだろう。

　「……っくそ！」

　「ぷろ……たご……ウチら、このままじゃ……」

　そして、その程度の冷静さは残っていたようで、プロタゴはまだ何か呟くニスタを抱えて走り去っていく。走る、といっても戦士じゃないプロタゴでは人間を抱えてでは遅い動きだけど、それでもぎりぎりで間に合ってくれた。

　そう、僕としても次の客（・・・）が来そうだったから、さっさと行ってくれないと困るところだったんだよね。

　「さっきの“お師匠様”ってのが何かを考える時間も欲しかったんだけど……ねっ！」

　岩の籠手を用意しておいた腕を振り上げながら気配の方へと振り向くと、ちょうどそこへと鋭い三本の爪が叩きつけられた。

　「どこ……正義……どこ……ない……ないの……」

　爪が取り付けられた左腕の先では、青みがかった黒髪を振り乱した通り魔がぶつぶつと呟いていた。