第135話
「来たな通り魔! やっぱりあの双子とは繋がりが……って、えぇ!?」
一旦距離をとって、一撃受け止めたことで魔法の岩の籠手が消滅した手で通り魔を指差しながら宣言する。しようと、した……んだけど、それは途中で驚きの声に変わってしまった。
「どこ……ないの……手……手……」
不意打ちの初撃を防いで悠々と距離までとった僕に構うことなく、通り魔は何事かを呟いている。ぼさぼさの髪にぼろ布みたいな服をまとった異様な姿だけど、別にそこに驚いた訳じゃない。そもそも外見の異様さや、狂人じみていて会話も成立しないというのは遭遇したライラからの報告で聞いていたしね。
それより僕が驚いたのは、だ。
「ユーカ君……なのか?」
「…………」
返答はない。だけどすっかりと薄汚れたその顔は、姿が見えなくなったといわれていたクラスメイトのものに違いなかった。
快活で正義感が強いユーカからはかけ離れた雰囲気になっている。だからこそ、学生が襲われた時に気付く者がいなかったんだろう。
それはまあそれとして……、まずは確認が必要だよね。
「
使い慣れた風魔法よりも視認しやすいっていう理由で火球を、それもわざわざ弾速を遅くなるように制御して放った。なんなら、妨害のレテラで自己妨害を組み込んでも良かったかな。
「……
まっすぐ、ゆっくりと飛んできた火球に対して、手首に爪を取り付けている左腕を振り抜いてかき消した。うん、間違いなく消滅のレテラによる魔法パリィだね。
露骨に探りをいれるための一撃に、さっきまでぶつぶつ言うだけだった通り魔改めユーカは首を傾げる。
……あれ? ライラの報告にもあったし、行動がそのものだったから、通り魔は壊れた狂人って認識していたけど、僕の探りの一撃を不審に思うくらいの理性はある?
というか、今のこの状況も聞いていたのとちょっと違和感がある。通り魔は問答無用で襲ってくるって聞いていたけど――実際に不意打ちはされたんだけど――今は距離がある状態で様子をうかがってきている。これって相手が“僕”だからじゃないのか?
通り魔がユーカだったからこそ、そんな思考に至ったんだけど、クラスメイトであったから、僕がヴァイシャル学園の首席入学者で、戦闘・戦術科でも屈指の実力者であることはその目で見て知っている。
そんな当たり前のことを急になんだっていわれそうだけど……そう、当たり前のこと、だ。経験して得た知識を元に思考して、適切に判断を下す。それは当たり前に人間がすることで、心が壊れた狂人の振る舞いじゃない。
と、すると……だ。もしかしてだけど、このユーカは何かがあって錯乱しているだけ……なのか?
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