第130話

 「うぅ……ん」

 

 通り魔……か。

 それこそゲームに出てくる敵キャラクターじゃないんだから、何もない所からぽんと湧いてくるようなものじゃないだろう。実際に出会ったライラの報告だと隻腕の狂人で、特に身体能力はかなりのものという話だった。消滅魔法とか特殊能力を抜きにしても、ライラにああまでいわせるのはかなりの戦士だ。

 そうなるとあれかな、どこかの裏組織に所属していた暗殺者が大怪我をしたことで捨てられた、とか? ヤマキ一家はそういう義理を欠いたことは特にしなさそうだけど、このヴァイスの裏にいるのは彼らだけじゃない。

 

 今はあてもなく街中をうろついている。通り魔を探してということだけど、学園で姿を見なくなったプロタゴとニスタのことも何かわかるかもしれないと思ってのことだ。

 とはいえ、こんなふうに唸りながらうろついただけで、そう都合よく見つけられるなんて考えている訳でもなかったりする。まあ、解析のレテラの副次効果で気配が読めている僕にはおかしな動きをしている人がいればわかるから、うろついているだけといっても常人のそれとは違うんだけど、だからといって気配だけで誰かまではわからないから特にこんな街中ではそれほど有効ということもない。

 結局のところ、ちょっと考えを整理したかったという側面が強い。歩きながら思考をまとめようかなということだ。

 

 ちょっと前までなら、人目につかない路地を選んでうろつけば、通り魔のほうから来てくれる可能性も低くはなかったんだけど、今はどうだろうね。というのも、どうやら奴はその狙う対象の範囲を拡げたようだ。

 少し前までは、通り魔はヴァイシャル学園の生徒を狙うという話だった。制服で見分けもつきやすいから狙ったんだろうけど、逆にいえばその程度だったということ。何しろ学生といっても様々で、特に戦闘・戦術科以外は実戦では普通に素人だし、その戦闘・戦術科にしても常に複数で行動して規律ある衛兵や、個としての戦闘能力が飛びぬけた冒険者に比べれば素人に毛が生えた程度、というやつだ。

 

 ところが最近になって通り魔はついに冒険者をも襲いだしたっていう話だ。駆け出しの比較的未熟な若手を狙っての犯行ではあるようだけど、こうなると話は変わってくる。

 対魔獣のスペシャリストで、依頼を受けて戦いに赴く冒険者という存在は、戦闘能力においては最高峰の存在だ。事件捜査とか住民との交流もする衛兵や、貴族直属の存在として統治にも関わる騎士とは違う。

 若手を狙ったとはいえ、その冒険者を餌食にできるなんていうのは、もはや街に潜む“怪物”と認識すべき脅威だ。学生相手でも時には撃退され、ライラには一蹴された通り魔に抱いていたイメージとは乖離している、ともいえる。

 まさか通り魔が実は複数いる……なんていうのは荒唐無稽に過ぎるから、おそらくはこの短期間で急激に成長しているってことだろうね。

 

 つまり例の防御か回復の特殊能力を頼りにして、無茶な実戦を繰り返す。そうすることで、通り魔は信じられないようなペースで強くなっているみたいだ。まるでゲームの“パワーレベリング”だな。

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