第127話

 ライラからの報告を聞いた僕は、消滅という非常に希少なレテラを使ったという情報から、通り魔とニスタの繋がりを疑い始めていた。

 だから、学園内で適当なタイミングで声を掛けて問い詰めようかと思っていたんだけど……。

 

 「逃げたのだろうか……?」

 

 グスタフにも当然既に伝えてあるから、不思議そうに見渡している。プロタゴとニスタの双子がいない教室内を。

 

 「やっぱり通り魔と何か関係があるって考えるのは……こじつけかな?」

 「どうだろうな……」

 

 僕がふと呟いた言葉に、グスタフは何ともいえない表情だ。だけどライラが通り魔に痛手を負わせた直後にこうっていうのは、繋げて考えたくもなるよねぇ。

 

 しかし痛手を……か。平然と起き上がって走って逃げたってことだったけど……。特殊能力だっていう予想は、間違っていないと思う。さすがにラセツみたいな存在でもない限り、普通の人間がライラの火の魔法をまともにくらって平然としているなんてありえない。

 ゲーム『学園都市ヴァイス』だと特殊能力なんていうものは実はなかった。魔力は魔法として発動する以外に、身体能力にも影響するっていうのは公式設定だったけど、それで何かの力に目覚めるなんていうのはなかった。

 剣や槍なんかの近接系で育てた場合に使えるようになる、遠くに飛ばせる斬撃とか、瞬間移動にしか見えない移動術とかも、あくまでも鍛錬の結果のそういう“技”っていう扱いだった。

 

 だから前世でゲームを遊んだ知識として色々なことを知っていると自負している僕だけど……、こと特殊能力になるとたいした考えも浮かばないんだよね。

 

 ということで、ライラの魔法コンボにも耐えるような特殊能力については置いておくとして、結局気にするべきは消滅の魔法を使ったってことに戻ってくる。

 ライラの見立てでは通り魔はウノマギアだったってことだけど、確かに魔法パリィは消滅のレテラの一文字発動でできることだ。だからウノマギアが消滅魔法を使ってライラの魔法をかき消したっていうこと自体は何もおかしいことじゃない。

 不自然なのはゲームの知識でもなければ辿り着けないほどに秘匿されている消滅のレテラを、ウノマギア程度が習得しているってこと。偶然って片付けてしまうにはあまりにも……だよね。

 光や闇の属性レテラは希少だっていっても使える魔法使いは普通にいる。なんなら学園の学術科で魔法系の専攻を選ぶような学生なら珍しくないといえるほどだ。そして秘匿されているレテラといえばの解析だって、一般に知られていないだけで、貴族であればわりと存在くらいは知っていたりするし、裏社会でも似たような感じだ。

 だからこそ消滅のレテラの異質さは際立つ。ゲーム『学園都市ヴァイス』だと知ってて当然の知識だったけど、それは皆が攻略情報だのを見られるゲームであればこそだ。この世界で貴族子弟として育ち、後々に備えて裏社会にも首を突っ込みながら過ごしてきた僕ですら、自分の前世知識以外では消滅の“し”の字も見なかった。

 

 通り魔は会話が成立するような相手じゃなかったってことだけど、ニスタとはどういう関係なんだろう。普通に教えた……? いや、通り魔はかなりの強さっぽいから想像がつかないか。

 そうなると、通り魔に襲われたニスタが見逃してもらうために教えたとか? それならありうるかも……いや、妄想が過ぎるよね。

 考えていても答えが出てくることはなさそうだし、結局はその通り魔をとっ捕まえて聞き出すしかないってことか。

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