第121話

 学園を出ると、グスタフは用事があるということで、どこかへ行ってしまった。

 僕はというと特に用事や買いたいものもないから、今日はこのまま寮に帰ってごろごろしてようかな。ヤマキ一家の方にはたまに顔を出すようにはしているし、今日はまあいいだろう。

 

 「お疲れさまでございます、ご主人様」

 「ご主人様! サイラもお迎えにきたの!」

 

 僕に護衛や世話係は必要ないことと、単純に人手が多くないことから、一人で街中を歩くこともよくある。だけど今日はライラとサイラが迎えに来ていた。

 ライラには特別頼んでいるようなことはないから、日常的な情報収集と拠点や寮での使用人業務以外は手が空いているんだろう。

 サイラはというと使用人としてはライラの補佐として働いているけど、情報収集なんかには参加させていない。ヴァイスに来る前に色々とさせた時にわかったことだけど、サイラはたまに暴走することがあるんだよね。暴力衝動みたいなものがあるタイプだから、見聞きに徹するような裏仕事は向かない。

 それはそれとして別方向に適性が……ということで、ラセツに頼んで鍛えてもらっているところではあるんだけど、ものになるのはまだ先かな。なんにせよ、今日のところは暇があったからライラについてきたようだ。

 

 「なにか気がかりですか?」

 

 歩き出すと、すっと横についてライラが聞いてくる。後ろについてこられても話しづらいから、こうするようにかなり前に僕が言ったからだ。とはいえほんの少しの表情とか雰囲気から、こうも的確に察するあたりはさすがライラ、よく見ている。

 ちなみにサイラは後ろとか横とか以前に落ち着きがないから、好きに歩かせている。今も通り沿いにあった店に興味があったようで、一人でそっちを見に行っている。“お迎え”とはいったい……?

 

 「ん? ああ、何でも通り魔がでるらしいね」

 

 腹心のライラに隠すようなことでもないから、頭に残っていた噂話を口にした。

 

 「ヤマキ様が動くとすれば、また何か相談があるかもしれませんね」

 

 さすがはライラといったところで、僕の気にしていたことを的確に察してくれる。

 前の血濡れの刃団なる余所者たちの計画を潰したときは、そもそもヤマキが僕を試したいという流れがあった。今回はそういうのはないけど、ある程度実力が認められたからこそ、今後の流れしだいでは何か頼まれることもありうる。

 まあ、ないだろうけどね。一応心配しておくことは悪い事じゃない。とはいえさすがに通り魔程度なら、フランチェスコあたりが動けば問題なく抑えられるだろうね。それ以前に衛兵がなんとかして欲しいことではあるんだけど。

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