第120話
「そろそろ泳がせるのは終わりか?」
隣にいたグスタフが小さな声で聞いてきた。グスタフは元から特にプロタゴの方には腹を立てていたようだし、過去行きの件ではいまだに悔いているような節がある。だから僕の雰囲気から察して、うずうずとしてきたようだ。
「そうだね……あと一押しってところだね」
「……」
後は決め手があればということを言葉にすると、隣から流れてくる空気も少し引き締まったものとなったように感じられた。グスタフとしても気持ちを研ぎ澄ましていっているようだ。
「君たち、ちょっといいですか?」
「バルバ先生……? なんでしょうか」
さっきまで授業をしていたバルバ先生はまだ教室内に残っていたようだ。それにしても僕らに話しかけて来るなんて珍しいね。
学術科でも魔法原理専攻の教員である彼は、マエストロである僕や、入学試験で器用な芸当を披露したプロタゴには興味を示していた。だけど貴族であることに配慮してか、僕に話しかけてくることはほぼなかった。
「君たちはユーカ君と仲が良かったですよね? 何か知りませんか?」
「何かって……何かあったんですか?」
急になんだこの先生は?
確かに僕もグスタフもユーカと話したことは何度かあるけど……、ユーカは基本的に人当たりがいいから、それを言い出すとこのクラスのほぼ全員が当てはまるんじゃないか?
とはいえ、聞きたいことは正直わかってはいる。ここ数日急にユーカが学園を休んでいるから、そのことだろう。だけど僕だって周囲が話していた噂くらいしか知らない。
「無断欠席だって聞いていますが……」
一応それも口にしてみる。意外と教員が生徒の間のことを知らないって状況もありえるしね。
「そうなのですよね……。いえ、引き留めてすみません」
それだけいうと、バルバ先生は難しい顔のまま教室を出ていってしまった。
まあ、確かにユーカは正義感の強い優等生だったから、急なサボりなんて不思議ではある。
――先生、アル君に話しかけてた?
――ユーカ君のこと聞いてたみたい。
――ああ~、心配だよね。
何やら噂されているけど、概ね皆も心配しているということのようだ。前世の僕は“正義バカ”ということで好きじゃなかったけど、この現実ではユーカは好かれているようだ。今の僕はどうかっていうと……、あんまり関わってこなかったからどっちでもないな、別に。
――心配って、あ、そっかあの噂あるもんね。
――そうそう、通り魔!
――怖いよね……。
――怖いって、俺たちは戦闘・戦術科だろ。
――だからって学生だし怖いものは怖いよ。
「いこうか」
「ああ」
まあクラスの噂話に聞き耳を立てていても仕方がないから、僕はグスタフを促して教室を出ることにした。
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