第117話

 僕が体の主導権を取り戻すと、うっかりと嵌めてしまったあの赤い指輪は消えてしまっていた。後でグスタフに聞いたところでは、僕が打ち上げられて落ちてきたときにはもうなかったらしい。

 そしてラセツの魔法をまともにくらったダメージでふらついてもいたんだけど、盗賊団の方は既に全滅していたから、あれ以上戦うこともなく済んだ。

 

 タマラは息があったし、襲撃したあの拠点ではエクスプローシブジェムらしき大きな赤い石――とても宝石には見えなかった――も見つかった。

 ……んだけど、どちらも回収は諦めた。あの後すぐに駆け付けたヤマキとも相談したんだけど、大きな街であるヴァイスに大打撃を与えかねないような魔法道具なんて、いくらなんでも強力過ぎる。そしてそれを計画していた主犯も、手に余る。

 

 怖気づくようで癪な気もするけど……、現実的に僕もヤマキ一家も所詮は裏社会のチンピラに過ぎない。今はまだ……。

 それこそパラディファミリーのように、政治力といえるレベルの力を持っていれば、裏で貴族とも交渉することだってできただろうけど……。いや、さすがに事が大きすぎるかな。

 

 だからといって、何も得るものなく街の平和に貢献した……なんて話じゃない。ヤマキはちゃっかりとヤマキ一家の関与だと、このヴァイスの裏社会に響き渡るような形で引き渡したようだ。

 この辺りで、この頭頂部が禿げた厳つい顔の“親父”の機嫌を損ねるような奴は、それが強大な力を持った余所者であったとしても好き勝手振る舞うことなんて許されない。そんな風に評判が広まるのも時間の問題だろうね。

 そしてこの一連の事件を通して、僕らは僕らでヤマキとその部下たちからの評価を得たと思っている。フランチェスコはまあ、露骨に態度が変わったし、何より頭領のヤマキが僕を軽んじていないのなら上々だ。

 

 全て上々……、苦労はしたけど得るものもある事件だった。

 で、済めば良かったんだけどね。

 

 思わせぶりな態度で、僕の中にあるもう一人の僕を演じていたあの指輪……。最後の瞬間には尻尾をだしていた。

 「大罪装具」とか言っていたあの言葉だ。ゲーム『学園都市ヴァイス』の知識がある僕は、この世界の一流の学者でも聞いたことすらないようなレテラに関する情報すら知り得ていた。必要がないから積極的に探しに行くようなこともしていないけど、武器なんかに関する情報もある。

 だけど考えてみると魔法道具に関してはあまり知らないのかもしれない。ゲームでも古代の魔法道具については、ちらほらと出ていたけど……精々が強力な魔法道具っていうくらいの意味でしかなかった。

 シェイザ領東の遺跡でのあの“通路”にしても、遺跡の謎の機構って扱いでしかなくて掘り下げはなかった。そうするとやっぱり、古代の魔法道具については僕でも知らないことが多いな……。

 

 そういえば、過去で消滅のレテラを習得したあとで、それを条件にしていたらしい説明書のインストールを僕は経験していた。情報を人間の頭に叩き込む魔法道具なんて、聞いたこともないけど、あの指輪の言葉にはそれっぽいものもあったな。

 そう……「意識領域」だ。人間が「大罪装具」に逆らえるはずがない「意識領域」。そんなことをいっていた。僕にそれができたのは、この時代の人間が経験しているはずのない、「意識領域」への干渉を経験していたから……というのは突飛な妄想だろうか……?

 

 まあ、少し不安を感じるのもうまくいったからこそだよね。今回はうまくいって、ヤマキ一家からの信頼という報酬も手に入った。僕が過去で死に物狂いで得てきた“力”も実戦で試して手応えがあったし。

 繰り返しになるけど、今回は上々。結局まとめるとそうなるのかな。

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