第112話

 「うおおおおおおおおぉぉっ!」

 

 “シェイザの絶叫”を合図にするようにして、グスタフが重厚なロングソードを振り回して突っ込んでいく。

 

 「「「ぎゃああぁつ!」」」

 

 戦うというよりは、ただ進路上にいたために弾き飛ばされたといった雰囲気で三人もの盗賊が一瞬のうちに戦闘不能になる。

 

 「では、妾も……合わせた手には、霜降りて」

 

 その様子を眺めていると、さらに隣から手を軽く叩く音と進み出る気配がして、目を向けるとラセツが一歩二歩と歩き出すところだった。独特な詠唱に呼び寄せられるようにして冷気がまとわりつき、ラセツの褐色の繊手は一瞬で恐ろしい武器と化す。

 

 「痛ぇ!」

 「っ! ……」

 

 舞うようにしてラセツが両手を振り回しながら進むと、その進路上で体の一部を凍らせた者は痛みに呻き、貫かれた者は声もなく倒れる。

 グスタフの一振りで何人も薙ぎ払う豪快さとは対照的に、的確に狙った相手を仕留めていくラセツの様子は敵から見ると正しく“悪鬼羅刹”といったところだろうね。

 

 場所は計画書から知った血濡れの刃団の拠点。街中の死角にあるこの寂れた倉庫には、奴らにとっての虎の子であるエクスプローシブジェムなる魔法道具があるはずだ。

 

 「おっと、どうやら間違いじゃなかったみたいで安心したよ」

 「はぁ?」

 

 グスタフとラセツが盗賊どもを圧倒するなか、その合間を縫うようにして歩いてきたダガーを手にした大女をみて呟くと、相手は不快そうに眉根を寄せた。でもうねった赤い長髪が特徴的なあの女、タマラがここにいたということは、僕らのつけた見当というのは空振りじゃなかったということだから、ほっともするよ。

 

 「今度は逃げるなよ……? 腰抜け」

 「っ!」

 

 とりあえず軽く煽ってみると、タマラの寄っていた眉根はつり上がり、額には青筋がいくつも浮き上がってわかりやすく怒っている。それで飛び掛かってこないくらいにはまだ冷静みたいだけど……。

 

 「前回といい、今回といい馬鹿にしやがって……っ。あたいらの計画を邪魔する連中を潰すために使うつもりだったけど……、いいさ、先にお前で試してやろうじゃないか」

 

 「計画を邪魔する連中」って言ったよね……こいつ……? つまりは拠点を潰したりしてるヤマキ一家のことは察知しつつも、僕らのことは偶々出会っただけの良くわからない学生くらいに思ってる……?

 いや、まあ、客観的に見てヴァイシャル学園に通ういいとこの坊ちゃんみたいにしか見えないか……。グスタフはまだ厳ついし迫力もあるけど、僕は……ね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る