第111話

 「逃がしたのは一人だったんだよね?」

 「それは間違いないのじゃ。あの煙の道具を使われる前に、しっかと確認できておった」

 

 怪しまれないよう走らず、かといって遅くないように歩きながら、ふとラセツに確認する。あの拠点でも聞いたことだけど、逃げたのが一人というのは間違いないようだ。

 

 「何か気になっているのか?」

 「ん……? いや、そうでもないよ」

 

 グスタフが怪訝そうにしたから、ふんわりと否定しておく。実際、移動の途中で手持ち無沙汰というか、ふと気になったから確認しておいただけだ。何かが具体的に不審だったとかそういうことじゃない。

 ふと…………そう、本当にふと脳裏を過ぎったというだけ。裏社会の人間がしくじった部下を一般人の巻き添えとか気にせずに制裁するなんて当たり前のことだし、そのやり方が特に凄惨だったからといって、それも珍しいことでもない。

 だけどその中での数の不一致がやけに気になる……。それもわざわざ判別がつかないような状態で……。

 まあ気にしすぎか。街の一画を焼き尽くすという物騒な魔法道具の存在がでてきて、ちょっと神経質になっていたのかもしれない。

 

 「あの向こうだね……」

 

 今僕らがいるのは大きくも小さくもない、このヴァイスにおいては普通の通り。そして視線の先にはその中ではやや大きな建物があって、あの裏はちょうど都合よく周囲から死角になっている。

 そこがさっき僕らが暴れてきたのと同じような倉庫か何かになっているらしく、そして奴ら血濡れの刃団が最も安心して物を置けると判断した場所であったらしい。

 逃げられたタマラが何か動きをみせるのは間違いない。僕とぶつかってあそこまで完敗し、さらに僕らとヤマキの方で二カ所の拠点を一気に潰され、それで静観するような消極的なやつが盗賊稼業なんてやる訳ない。

 完全にバレたと想定したら魔法道具を慌てて担ぎ出して無理でも即時に実行してくるだろうし、まだ大丈夫と踏んだのなら一旦拠点の場所を移して仕切り直そうとするだろう。

 とはいえ、奴らはどこかから来た流れ者だ。そもそも地の利はない以上、前者の可能性が圧倒的に高い。

 

 だからやっぱりヤマキにも話してきた通り、今ここでかたをつける。ヤマキが僕を試そうとして振ってきたちょっとした厄介ごとだったはずの治安悪化の調査は、下手をすればこの学園都市ヴァイスに大損害を与えかねないほどの事態へと発展して、僕が対峙することとなっていた。

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