第102話

 「うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 ラセツが裏へと回り込むために動き始め、そして正面からは一応の迎撃態勢をとられている。そんな状況だからもう奇襲も何もないと考えたらしく、グスタフからは遠慮も何もなく“シェイザの絶叫”が放たれた。

 一応僕としては相手の盗賊団より周囲の一般人が気になるんだけど……まあこの立地なら気にしすぎか。こういう場所っていうのは“いわくつき”として避けられるようになるものでもあるしね。

 

 「がああぁっ!」

 

 グスタフの気迫に飲まれないようにという意図か、髭もじゃが大斧を振りかざして怒鳴っている。

 恐怖を感じるというほどではないけど、顔の表面にぴりぴりとしたものはある。僕より前にでているグスタフへと向けられた殺気なのにこれっていうことは、意外と侮れない相手ではあったようだ。

 なるほど、だからこそグスタフも真剣に相手をするために叫んだのか。

 

 「ぬぇいっ!」

 「舐めるなガキが!」

 

 爆発的な勢いで踏み込んだグスタフが、重厚なロングソードを背から抜き放ちざまに斬りかかる。だけどそれは大斧でがっちりと受け止められ、得意の嵐のような連撃へとつなげることはできなかった。

 

 「おっと……」

 

 見応えありそうなグスタフの一戦だったけど、残念ながらゆっくりと観戦という訳にはいかないようだ。

 

 「……あぁん? ここらをシマにしている連中からの火球かと思ったが、なんの冗談だ?」

 

 さっき出てきた五人のうちの武器を持っていなかった奴が、不潔そうなぼさぼさ頭をがしがしと掻きながら呟いているのが聞こえた。「火球」っていうのは火と放出のレテラ二文字で放つ魔法のことで、昔の裏社会では街中で標的にいきなりその火球をぶつける手法がよくとられたことから、暗殺とかその実行者を指す言葉らしい。コルレオンで色々やっていた時にそういう連中から何度か聞いたことがあるから間違いない。要するに“鉄砲玉”というやつのことだ。

 

 「はは、冗談はそっちの方だろ?」

 

 ひとの街にぞろぞろとやってきて火事場泥棒を計画するなんて、冗談もいいところだ。思わず出た言葉ではあったけど、半分くらいは挑発して相手を冷静じゃなくさせようという意図もあった。

 

 「はあ?」

 

 だけど意図は外れ、さっきのが心底から不思議そうに片眉を上げ、その後で五人が互いに目配せをしあっている。一応、僕は頭領のタマラともやり合って圧倒した訳だけど、こっちがすぐに動いたとはいえこいつらには何も伝わっていないとみえる。

 

 「うぅん……そうなると、ここはハズレ、かな」

 

 重要度の高い拠点ならタマラ本人が駆け込むなり、即座に警戒態勢をとらせるなりしていると思うんだけど……。そうじゃないってことは、ここで重要情報なんて期待できないんじゃないかなという失望感が思わず口をついて出てしまった。

 

 「おい、一応セルジョさんに報告してこい」

 「へい」

 

 指示されて一人が建物内へと駆け戻っていったから、これで僕の前には四人になった。セルジョさん……か。どこかで聞いたことがあるような……、ないような……?

 まあ、思い出せないってことはたいしたことない情報だってことだろう。

 それに、建物内では遠い方から順調に気配が消えていっている。つまりラセツがちゃんと働いているから、その“セルジョさん”も報告にいった奴と一緒に消えるのは時間の問題だろう。

 

 となると、僕の方での仕事はこいつら四人を逃がさず仕留めつつ、一人くらいは生かして捕らえるってことくらいかな。うん、楽勝そうだ。

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