第100話

 さて……、血濡れの刃団とやらの拠点に来てはみたものの……。

 

 「鬼が出るか蛇が出るか、ってとこか?」

 「鬼ならここにおるのじゃ」

 

 ラセツからの緊張感のない茶々に思わず苦笑を漏らす。

 

 「手掛かりが出てもらわないと困る」

 

 そしてグスタフがぽつりと呟いたやけに真面目な一言に、笑みを深める。

 

 「こんなぞろぞろとやってきて、フランチェスコが行った方が当たりだったら格好がつかないしね」

 

 わざわざ別の場所にいたラセツと合流して、明らかに気合いを入れてきておいて、「何もなかった」って報告するのも嫌だし。

 とはいえ情報源は盗賊団の頭領であるタマラが落とした紙切れだ。何の価値も意味もない場所が、ただ何となく書いてあったなんてことはないだろう。

 

 「そもそもどちらかだけが当たりなのか、ととさま? どちらにも……あるいは分けて何かを隠してある可能性だってあるのじゃ」

 

 確かに、ラセツの言った通りだ。騒動を起こすための魔法道具の隠し場所であることを期待してきたわけだけど、それがひとつだなんて決めつけない方がいいよね。

 

 「ふむ……」

 

 まだ少し距離が離れている目的地を改めて見てみる。

 

 「ただの倉庫に見えるな」

 

 グスタフが言った通り、それはよくある普通の倉庫だ。ヤマキに連れられて尋問をしにいったあの建物にも似ている。

 

 「しかし倉庫というのはこのような場所にあるものなのかの?」

 

 けどラセツの抱いている疑問というか違和感もわかる。

 

 「明らかに怪しいね……。というか都合が良すぎるというか」

 

 怪しいというのはその立地だ。商店とかの倉庫っていうのはある程度以上の規模の街になら普通はあるものだけど、大体は倉庫街みたいに集まっているか、小さなものが点在するかだ。

 

 けどこれはそれなりの大きさの倉庫が、街中にぽつんと建っている。しかも異質なのが、人通りのなさ、だ。

 いくつかの路地を経由してこないと、この倉庫の入り口がある場所にはたどり着けない。そして周囲にたくさんあるように見えている建物は、そのどれも入り口が別の方向を向いている。つまり、この辺りは建物が多いように見えて、実は絶妙に出入りが人目につかない。

 ……あまりにも都合が良すぎる、何かの隠し場所として。

 

 とはいっても血濡れの刃団はどこかから流れてきたばかりの新参者だ。どうみてもそれなりに年季のあるこの倉庫を奴らで用意したとは考えづらい。元々あったここを見つけて、目立たずに手に入れてしまえるような、抜け目のない奴がいる、ということなんだろう。

 

 ふと、すこしだけ手合わせをした赤毛の大女が頭に浮かぶけど、あいつじゃないだろう。あれはそんな丁寧な仕事ができるタイプには思えなかった。となると、今から襲撃するあの場所にそいつがいると考えた方がいいかもしれないね。

 まあ、何にせよ油断は禁物ってことだ。

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