第99話
儂はヤマキ。若い頃には“喧嘩屋”なんて怖れられ、今はヴァイスでヤマキ一家の頭領として――自分でいうのもなんだが――軽んじられることはないくれぇにはなっている。
そんな儂も歳のせいか、最近はふんぞり返って手下どもを顎で使うようなことが増えている訳だが……今回ばかりはそうもいかなそうだ。
「親父、これをっ!」
そんな風に駆け込んできたフランチェスコの報告を受けたことでそうなった。
「これは?」
「雑貨屋でアルさんに会いまして……」
この街全体が揉め事にさらされそうって時に足元が揺らいじゃいけねぇってことで、ちょっとした窃盗があったらしい所へこのフランチェスコを様子見に行かせてたんだが……。
「で、例の盗賊団の頭を名乗るやつが路地でですね――」
「ちょっと待て!」
思わずフランチェスコの報告を遮っちまった。展開が唐突過ぎるぞ。
「盗賊団のってぇと……血濡れの刃団か?」
「そうです」
確認するとあっさりと頷きやがった。そんなことがあるか?
「タマラって名乗る長い赤髪の大女でした。ダガー使いで恐ろしい身体能力した奴で……さらには魔法まで」
なるほどそれぁ、厄介だ。手札が最初っから多いってんなら、対等な勝負になんてなりえねぇからな。
「俺も不覚をとったんですが……、なんとアルさんがそれをあっさりとやっちまったんですよ!」
「ただ者じゃねぇってのはわかっちゃいたが……それほどか」
思わず唸る。このフランチェスコがやらかした一件でその器量は見せてもらっていたが、単純な戦闘能力も相当なものってことか。
「で、変な道具でそのタマラには逃げられたんですが、これが……」
フランチェスコが差し出してきた紙切れを受け取って目を通す。
「奴らの拠点……か」
「アルさんは仲間連れてこっち見に行くって言ってました」
ふむ……儂を“使おう”ってか、あの小僧め……。
そんな訳で、儂はさっそく書かれていた場所へと辿り着いていた。アルにあてられたって訳じゃあねぇが……、今回は儂自らが、側近のルアナとフランチェスコを供にしての訪問だ。
「約束もなしで悪いが、邪魔するぜぇ」
たった今、拳で吹き飛ばした扉の残骸を踏み越えて中に入ると、数人のチンピラが驚いた顔をしている。どいつも見たことねぇ
「暴れてやるから覚悟しな!」
「武器を捨てて両手を床につきなさい。そうすれば骨の一本か二本で許してあげましょう」
フランチェスコとルアナの二人も張り切った様子で室内へと踏み込む。ここは小さな倉庫。しかも商店の倉庫が集まる区画ではない場所にポツンとある、ちょっとした物置きみてぇな建物だ。
そんな建物は街中にいくらでもあるし、隠れ家として使うにはうってつけって訳だな。
「軽いんだよっ!」
金属がひしゃげる音に目を向けると、フランチェスコが手甲をつけた拳で大斧を持ち出してきたチンピラをその得物ごと叩き潰している。体の大きさに見合った豪快さだ。
「投降の機会は与えたのに残念です」
ルアナは武器を取り出す間すら与えずに次々と投げ飛ばしている。手を捻ったり足を引っかけたりと小さな動きでさばいているだけにしかみえねぇのに、投げられた相手が誰一人起き上がらないことがその威力を物語る。
「くそがぁぁぁっ!」
物陰からナイフを腰だめに構えた若いのが飛び出し、突進してきた。見渡すとこいつが最後で、すでに叩きのめされている他の連中も若いのが多い。雑魚しかいねぇし、こっちは外れだな。
「ふん!」
右腕を振り払って裏拳でそいつの頭蓋を叩き割った。殺しちゃいねぇが、無事に済ましてやる義理もねぇ。
「さすが親父っ! すげぇや!」
フランチェスコが目をキラキラとさせて褒めちぎってくる。……ったく、こいつはこんなだからヤマキ一家の幹部だってのに威厳が足りねぇんだ。
「相談役の方に期待ですね」
まだ意識があった奴を小突いて骨を折っていたルアナがここには何の有用な情報もなさそうだということを報告してくる。てっきり悪い癖が出て遊んでるんだと思っていたが、きちんと仕事をしていたらしい。
「一応、もう少しだけ中を漁るぞ」
そう言って儂はどかりと床に腰を下ろす。二人の頼りになる側近はきびきびと動いて見落としがないように調べているが……、この狭い場所に若い雑魚ばっかりとくるならここは本当にただのたまり場みたいなもんだったんだろう。
あの小僧に運まであるってなるとちょっと癪だが、あとはアルの見に行った方に期待、だな。
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