第91話
何かがあったらしい雑貨屋に入ると、店主らしき老人のほかにも人がいた。といっても客という訳ではないのではないだろうか。
「あれ……? もしかして、聞き込み?」
僕が驚きつつ聞くと、相手の方がもっと驚いたようだった。
「えっ! アルさん!?」
目と口を大きく開いたその間抜け面は間違いなくフランチェスコのものだ。
背の高さでいうとグスタフと同じくらいで、厚みでいえばそれ以上。まさに絵に描いたような裏社会の大男って感じのフランチェスコは、ヤマキ一家では“親父”こと首領のヤマキの腹心の部下だ。言ってみれば幹部な訳で、それが動いているってことはここには相応の情報が期待できるってことで当たりなんではないだろうか。
「もしかしてアルさんも親父から……?」
その先までべらべらと口にしなかったのは良かったけど、表情に出やすいうえに口も軽そうだなぁ、こいつ。フランチェスコが“誰”かを知る人間からすると、この態度だけで僕がどういう立場かがある程度わかるじゃないか。
「いや僕はたまたまこの店が最近余所者に迷惑かけられたって聞いてね……。でしょ? お婆さん」
途中から眠そうな顔で座っている老人へと話を向ける。
「ええっ! 俺は親父からこの店で困りごとがあったらしいから話聞いてこいとしか……。余所者って例の件ですよね? はあぁ……、さすがアルさんだ」
顔合わせの時からすると随分と殊勝な態度だけど、今はこっちの老人に話を聞いているから割り込まないでくれるかな?
「っ!」
僕のやや不機嫌な目線を察してフランチェスコが両手で自分の口を押えて黙った。それを待ってという訳でもないだろうけど、老人はやっぱり眠そうな目をこっちに向けて口を開く。
「私じゃなくてお客さんがねぇ、うちを出てすぐに鞄をひったくられたのさ」
「それは怖いですね」
わりともう癖として染み付いている優等生的な振る舞いで共感を示すと、店主は「本当に、本当に」と頷いている。あの露天商も客足が鈍っているようなことを言っていたし、普段は落ち着いて買い物ができるこの辺りでそういうことが起きるのは実際に困るんだろうね。
「あっちの路地へ逃げ込んですぐに見失ったとかで、そのお客さんもがっかりしなさってねぇ」
「……そうですか」
グスタフがちょうど出入り口で立っていたから開いたままだった扉。そこから見えていた路地は露天商の目線から得た情報と一致していた。
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