第90話
「あわよくばまた絡んでくる馬鹿でもいないかなって思ってたんだけどさ」
しばらくぶらぶらと歩いて、それなりに人通りはあるものの大通りからは少し離れた場所へと辿り着いて、僕は呟いた。
「そう都合良くはいかないだろう。アル君は見るからに貴族っぽい見た目をしているから」
確かに僕は猫っ毛気味な金髪でやや細身ながら長身と、自分でいうのも何だけど見た目だけなら貴公子然としている。だけど……。
「ガラの悪いのが絡んでこないのはグスタフのせいだと思うよ……」
「……む?」
僕よりさらに長身で、しかもしっかりと厚みのある体格。赤っぽい茶髪を五分刈りにしたその姿は“厳つい”としか表しようがない。……まあ今にしてみれば、グイドと違って目が優しいから全然怖いと感じる雰囲気ではないんだけどね。
まあ、そんな愚痴を言っていても何にもならない。大体、受け身な姿勢で情報収集をしようとしてもうまくはいかないだろうし。
「ねえ、最近の調子はどう?」
という訳で、その辺にあった小物を売る露店に声を掛ける。なんか可愛いとは言い難いデザインのペンダントを指差しながらの質問に店主の男は口角を露骨に上げて対応する。
「はい、お目が高いよ、お客さん! 商売の調子ならたった今すっごく良くなりましたとも」
浮ついた雰囲気を出しつつも、手つきはしっかりとそのペンダントを包装していく。仮にも貴族子弟で、自分で稼ぎも得ていた僕からすると大した金額ではないものだったけど、今渡した何枚かの硬貨はこの露店ではかなりの高額商品だったということなのだろう。
だけどこの言い方って……。
「まるでつい最近まで景気悪かったみたいな言い方をするね?」
「お、おお、お客さん若いのに目敏いですねぇ」
景気がどうのなんて――それが悪い方向の話ならなおさら――普通は初見の客にされたくないだろうけど、手元は丁寧に動かしながら機嫌よく言葉を続けてくれる。
「いやぁ……実はこの辺も最近は色々あるから客足がちょっと……なんですよね」
「ガラの悪いのがうろうろしてるよね。しかも見覚えのない顔ばっかり。この辺も大変だったんだって?」
「っ!」
自分の目で見たことと、ヤマキ一家の倉庫での尋問で得た情報をだしつつ、僕はさも何かを知っているという風に話をする。普通に考えたらそこまで物知りなら何でわざわざ露店で聞き込みなんてするんだよって話なんだけど、店主の男はうまく動揺してくれたらしい。
「は、はは、いやぁ、困っちゃいますよねぇ……」
商人には商人の繋がりというものがあって、通りの治安が悪いなんていう露天商にとっての悪情報を常連でもない客に言ったなんてことになればこの男の立場が危ういことになるだろう。だから言葉を濁すのは当然。だけど、商売人にしては素直というか……。
「ありがとう」
「い、いえ……あっ、いや、こちらこそお買い上げありがとうございました」
何だかんだで最後まで丁寧に包まれたペンダントを受け取って、僕はその場を離れる。
「良かったのか?」
グスタフが追求しなくて良かったのかと聞いてくる。けどあれで十分だった。
「うん、必要な情報は手に入ったよ」
僕が当てずっぽうでいった“この辺も大変だった”って言葉に、動揺した露店の主は目線を泳がせた。その時に見ていたのはこの通りにある雑貨屋の一軒と、とある路地の方だった。
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