第89話
学園の授業が終わった僕は、寮へと真っ直ぐは帰らず、グスタフと街をうろついていた。
ちなみにライラにはラセツを護衛に情報収集を頼んでいるけど、サイラは拠点で待機している。まだサイラの役に立つような状況ではないというのもあるけど、状況的に治安が気になるから拠点の警戒を任せたという意図もある。
「何を調べるつもりなんだ?」
ここまで黙ってついてきていたグスタフだけど、さすがに僕がふらふらしているものだからそう聞いてきた。
「何を調べればいいかを調べようかと……」
「?」
素直に答えると首を傾げられた。別にはぐらかそうとした訳でもないんだけどね。
「あまりにも何もわかってないから、街の様子を見つつ情報の取っ掛かりになりそうなものを探してるんだよ」
「あぁ、なるほど」
納得してもらえたようだ。
「まあ、見た感じ大通りの治安は悪くなってない。そうすると時間的な余裕はまだあると考えてもいいだろうね」
今歩いている大通りは普段通りの学園都市ヴァイスだ。僕の目から見て裏社会に属するような人間も混じっているものの、大っぴらにしているようなのはいないし、余所者っぽいチンピラも見当たらない。
一本外れただけで僕とラセツに絡んできたようなのがいるっていうのが、もう異常事態だからこそヤマキ一家としても探り始めている訳だけど、例の盗賊団はばらばらに侵入してきているって話だったし、まだかなりの少数なんだろう。
探り始めているといえば、ユーカから聞いた冒険者の話が気になるな。まさか街の治安なんて件に冒険者が首を突っ込もうとするなんて。冒険者といえば戦闘のプロで、巨大な魔獣みたいな普通の人間には手に負えないようなものを相手にする連中だ。
それだけに腕前に誇りを持っていたり、あるいは戦闘狂みたいなのが多いから、人間同士の争いごとには興味を示さないっていう認識だったんだけど、このヴァイスの冒険者ギルドは違ったらしい。
ゲーム『学園都市ヴァイス』でもプレイヤーが望めば冒険者ギルドに関わることはできた。学生である主人公がギルド長にたまたま気に入られて、職場体験みたいな名目で冒険者の仕事に同行できるって形だ。冒険者は前世の感覚でいうとプロスポーツ選手みたいなもので、戦闘に関してエリート中のエリートだから、弱い魔物を倒したり薬草を探したりみたいなお使いはない。だからゲーム内でも冒険者ギルドクエストは戦闘を極めたいプレイヤー向けのいわゆる“やり込み要素”だった。
僕は『学園都市ヴァイス』をやり込んだとはいっても、ゲームではストーリーを楽しむ派で、クリアまでいくとキャラクターを作り直して何度も初めから遊んでいた。だから何を言いたいかというと、冒険者ギルドについてはあまり覚えていないんだよね。
クエストに同行できる冒険者のキャラクターはやたらと強い剣士とか、魔法も武器も索敵もほぼ何でもできる便利屋とか、名前は憶えていないけどかなりの粒ぞろいだった。だけどその辺もゲームらしく“便利な駒”と認識していたものだから、パーソナリティみたいな面は記憶にあんまり残っていない。そもそもゲーム的にも深掘りはされていなかったと思うし。
というか、ユーカの母親っていうのも、もしかしたらゲームでは見たことがある人物なのかもしれないな。だったらどうしたというものでもないけど。
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