第88話

 色々と慌ただしい状況にあって裏社会での仕事をしなきゃいけなくても、僕はヴァイシャル学園の生徒だ。……つまり授業を受けないといけない訳で、今もちょうど退屈な座学がひとつ終わったところだった。

 

 「んぅ~、次は移動だよね?」

 「ああ、演習場だな」

 

 まあ、戦闘・戦術科は体を動かしたり魔法を実際に使ったりする授業も多いから、いうほど嫌ということもない。

 ……と、グスタフがこっちを見たままだな。何か心配事だろうか?

 

 「疲れているようだが……、無理はしていないか?」

 

 ああ、心配って僕のことをだったのか。

 

 「大丈夫だよ。ただ調べ物のほうがね……、面倒事にならないといいなぁってさ」

 「そうだな……」

 

 さすがに学園内でそっちの仕事について詳しいことはいえないけど、グスタフとはもちろん既に情報は共有済みだからこれで伝わる。

 現状ではとにかくどこぞの盗賊団がばらばらとこのヴァイスに集結しつつあること。そしてそいつらが火事場泥棒のために、かく乱工作を画策していること。なによりそのかく乱工作が場合によっては甚大な被害をもたらしかねないこと、くらいしかわかっていない。

 どこかの騎士団にやられて壊滅しかかったから、今の規模としてはしれているけど、だからこそ必死だろうし怖いともいえる。それに元は騎士団に狙われるくらいの規模だったというのがはったりじゃないなら、中には相当な手練れが残っている可能性もあるから、大規模な魔法攻撃みたいなのも警戒しないといけないのか。

 まあ、街を守るみたいなのは、ある程度情報さえ掴んでしまえば、衛兵にでも流せばなんとかするだろうけどね。僕らとしては血濡れの刃団とやらの主要メンバー……できれば首領を潰して、ヤマキ一家は余所者に好き勝手はさせないぞという面子だけ保てればそれで良い訳だし。

 

 「ねぇ、アル君とグスタフ君は知ってる?」

 「ん、何の話?」

 

 と、教室を出る前に話しかけられる。何やら少し浮かない表情をしたユーカだった。

 

 「最近街の方がなんていうか……安心できない感じじゃない?」

 「ああ、うん。ガラの悪い人がたまに歩いているよね」

 「……」

 

 口を滑らせないためにかグスタフは黙ったから、僕が適当に調子を合わせて話しておく。「歩いてるよね」どころか、もうすでに絡まれたし、これから調査もすることになってるなんて言える訳がない。

 

 「母さんも調べるって言ってたから私気になっちゃってさ……」

 「母さん? 衛兵なの?」

 「あ、ううん。母さんは冒険者なのよ」

 

 へえ、そうだったっけか。ゲーム『学園都市ヴァイス』でのユーカは正義感が強いってことくらいしか覚えてないな……。

 ていうか、この質問に、その性格……。なんか面倒事の臭いがしてきたぞ……。

 

 「へ、へぇ~、冒険者も気にするなんて危ないことみたいだね。僕らはまだ学生だし――」

 「うん、わかってる! 何かを掴んだら衛兵か冒険者にも教えるつもり」

 

 僕はそもそも関わらない方が良いって言おうとしたんだけどね……。

 あぁ……、正義馬鹿が裏社会での僕も関わることに興味持ったうえに、冒険者も気にしてるって? なんか段々と厄介さが増していっていないか?

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