第84話
あの捕まっていた無精髭男が色々と吐いた後は、口を封じてちょっと汚れた倉庫内もそのままに、僕はまたヤマキに先導されて歩いていた。
街を歩いていたらあの喫茶店に連れていかれて、倉庫に行って、で今だ。連れ回されているといっていい状況に、イライラするよりも疲れを感じ始めている。
とはいえ、今向かっている先が今日は最後だろう。さっきヤマキが「うちに行くぞ」って言っていた。うちっていうのはヤマキ一家の拠点ってことだろうから、僕のことを色々と試したかったのは一旦終わりってことじゃないのかな。
ヤマキが僕のことをどう評したかなんてのはどうでもいい。どうせ生意気なガキとでも思っているんだろうし、向こうの立場なら多分僕でもそう思う。
まあそれでも、情報を引き出すのはうまくいってよかった。拷問なんて言われた時は正直にいうと内心ちょっとヒヤッとした。変態が欲求を満たすためにやるやつじゃなくて、情報を引き出すための拷問は専門技術だ。前世の記憶を思い出せる範囲であさってみても、僕はそういう目に遭う奴を追いかけて捕まえてくるのが主な仕事だった。
だから口が堅かったらどうしようとは思いつつ、イキがるだけのチンピラを怖がらせるなら慣れたものだから、とりあえずそれでやってみたら思いのほかうまくいった。
ヤマキは相変わらずむすっとしていて無口だから、先導されていて暇だ。だから自然とさっき聞いた情報が頭に浮かんで、しようとしなくても思考してしまう。
まずあの無精髭男が口にしたのに嘘はなかったというのを前提として、ヴァイスに最近入ってきていたガラの悪い連中はやはり組織的な動きということで間違いなかった。
“血濡れの刃団”とかいう、なんか安直極まりない名前の盗賊団に所属していると言っていた。他の団員もバラバラに行動して入り込んでいるらしい。その中で間抜けだった連中が、既に僕とラセツや、ヤマキ一家なんかに捕まっている訳だから、案外その血濡れの刃団の団長もふるいに掛けるようなつもりだったのかもしれない。
普通に考えて、そういうのは街の衛兵も捕まえて情報は得ていそうだし、ヤマキ一家以外の裏組織とか、あと冒険者ギルドとかも案外何か掴んでいるかも……。いや、ないか。冒険者っていうとダンジョンの探索や強大な魔獣の討伐が主であって、そんな連中が街中の治安維持案件に興味を持つはずもない、か。
あと、その血濡れの刃団がヴァイスに集結しようとしている理由が一番気になった。無精髭男が知っていたのは全く詳しい情報ではなくて「デカい騒動を起こしてその内に火事場泥棒して街から逃げる」って話。遠くの地で損耗して逃げてきたらしい血濡れの刃団が再起のために大きな儲けを欲しがるのはわかるし、ヴァイス周辺に居つくつもりがないなら大きな騒動を厭わないのもわかる。だからこそ、“デカい騒動”が中々に不穏に思えた。
普通に考えたら火をつけて回るとか……? いや、衛兵には水属性魔法の使い手なんて普通にいるだろうし、なにより学園だってある。ちょっとやそっとの騒動で大きな儲けがだせるほどの混乱に陥るとはちょっと考えられない。
まあ、不安がっていてもどうにもならないか。無精髭男が色々と吐いた後、裏をとろうともせずにヤマキはあっさりと口封じを指示してきた。他にも情報収集の当てはあるか、既にそれをしていたか、のどっちかだろう。
となると、まあ今から向かっている先でヤマキ一家側の知っていることも聞いて、それでヤマキが僕に何を指示するか次第で、僕の方でもどう動くかは決まってくるかな。よっぽど変なことを言われない限りは大人しく指示を聞くつもりではいるんだけどね。ヤマキがどんな感じの男かをまだ掴みかねているから、向こうがそうしたように僕も試したいんだよ。
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