第79話
大変な目にあった実習から少しの日が経った頃、ついに――といっても何もうれしいことじゃないけど――裏社会から僕に接触してくる動きがあった。
サティに敗北を喫したあの日、僕が前世で得たゲーム知識で準備を進めていた影響として、あいつは僕に相談役という立場を押し付けていった。とはいえ、ここヴァイスで学生生活を送る都合上、僕が当面の間に置かれる場所というのはゲームと同じく下部組織になる。とはいえ、ゲームでは主人公でもその味方でもない『アル・コレオ』の辿った道筋というのはその詳細までは描かれなかったから僕も知らない。
つまり向こうから来るはずだった連絡というのも詳細不明だったんだけど、それがついに来たということだ。
「相談役のアルだな、ちょっと来てくれるか」
僕がヴァイスの街を一人で歩いている時に声を掛けてきたのは、いかにもといった風貌の中年男。頭頂部が禿げた黒髪の頭はまあ普通だけど、いくつか傷のある角ばった顔はどうみてもカタギではない。身長は高くないけど、体の幅も厚みもあって凄みもある。
というか、眉間の深い皺のせいか常に怒っているようにも見える造形のこの顔を僕は知っている。知人だということではなく、もちろんゲーム『学園都市ヴァイス』でみたということだ。とはいっても、イベントシーンで本当にちらっと出たことがあるだけ。それも主人公が直接かかわるものではなかったから、正直記憶は薄い。
「頭領自ら迎えに来てくれるとは、恐縮だね」
そう、この厳つい中年はヴァイスの裏社会で幅を利かせるヤマキ一家の頭領ヤマキその人だ。
言葉とは違って馴れ馴れしい口調で返した僕だけど、“表向き”の学生の方で死亡フラグを回避しやすくするために優等生を演じているのとは違って、こっちの“裏向き”の方では変に下手に出る訳にもいかない。舐められたら先は死に直結している道しかない……、それが裏社会ってものだ。
「ふん」
昔気質のヤマキは若造に偉そうにされるのが気に食わなかったらしく、とはいえ僕がコルレオンの上部組織から遣わされた相談役であることは事実であり、結果として鼻を一つならして先導して歩き出した。
並んで仲良く歩く気も、僕の後ろに続くつもりもないらしい。
舐められたら終わり……なんていっても、ここでムキになって競歩みたいに歩くのも違うから、僕は精々余裕ぶって悠然とついていく。本当のところでは、グスタフかラセツを同行させたいところだけど、今はいないし、だからこそ今だったんだろう。「仲間を呼んできてもいいか?」なんて言えばここぞとばかりに馬鹿にしてくるのは目に見えているし、ここは面子を重視するしかない。
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