第77話

 「ととさまと一緒に過ごしたいのじゃ!」

 

 実習の次の日は学園が休みだったから、拠点で僕の経験したことを話していたんだけど、一段落したところでラセツがそんなことを言い出した。

 

 「行ってきたらどうだ?」

 

 グスタフはすぐにそう促してきた。武骨な雰囲気とは裏腹に気の優しいグスタフなら、まあこう言うだろうね。

 

 「ではあたしはサイラと例の双子について探り始めますね」

 「サイラってば頑張る!」

 

 ライラはさっそく動き始めてくれるようだ。そうなると情報収集は僕がでしゃばるより任せた方がいいだろうし、確かに僕には少し時間ができることになる。

 

 「じゃあ街でも見に行こうか? 食べたいものでもある?」

 「妾はととさまの好きなものを知りたいのじゃ」

 

 前に一度食べ歩きはしているから、希望はあるかと聞いてみたけど、なんとも可愛らしい発言が返ってきた。……まあ、自意識を獲得した直後かつ“あれ”に追い詰められていた状態で名付け親になったことで、短い時間でもかなり懐かれた訳だけど、ラセツとは一緒に過ごした時間がほぼないのも事実だ。

 

 

 

 「なるほど……こういう甘味がととさまの好みか」

 

 その辺の店で買った焼き菓子を、ラセツは持ち帰り用の箱から直接取り出して食べている。露店じゃないから食べ歩きしやすいような包装ではないのに、不思議と下品には感じさせない食べ方だ。あれかな、白髪と赤瞳が褐色の肌に映えるラセツは浮世離れした雰囲気をしているから、そういう感じ方をするのかもしれない。

 

 ちなみにラセツは今、和服に似た白と紫の服を着ている。途中まではライラの服を無理に着ていたんだけど、さっき入った店にあった東方の異国風の服が、偶然にも出会った時のものに似ていたから二人して気に入ってしまった。細部の調整を一瞬で済ませてしまったあたり専属の職人の腕もいいみたいだったし、いい店を見つけたかもしれない。

 そして頭には特に帽子とかは被っていない。つまり、ラセツの精霊鬼としての最大の特徴である、親指くらいの大きさの黒い角は普通に見えている状態で街歩きをしている。

 

 「……ぁ」

 

 それを見た若い男が足を止めて驚いた顔をする。

 

 「?」

 「っ……」

 

 だが視線に気付いたラセツが首を小さく傾げると、顔を真っ赤にして歩みを再開して通り過ぎていってしまう。先も考えていたように浮世離れした雰囲気であり、それに加えて異様に整った容姿のラセツにそのようにされては、男女問わず角どころではなくなるようだ。

 実際、角が見えたところで、変わった装飾品をつけているくらいにしか思われないだろう。鬼っていうのはおとぎ話の存在だと信じている者も多いみたいだし、百年前の話を知っていたとして、ラセツが正にその精霊鬼だなんて繋げる方がむしろおかしい。

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