光と闇の間で・裏社会接触編

第76話

 戦闘・戦術科でのダンジョンへの実習は、途中で寄り道した僕とグスタフがジャック先生からこっぴどく叱られたくらいで、後はつつがなく終了した。

 東側の入り口から入って、中央の石碑で折り返し、また東側へ戻るはずだったのに、西側の入り口を見に行っていて姿を一時くらました――と言い訳した――僕らが叱られたのはまあ当然であるとして……、他には怪我人も怒られる生徒もいなかったということだ。

 

 つまり……、あの日は僕もグスタフもニスタとプロタゴの双子に何も文句を言わなかったということでもある。グスタフと一緒に僕がしれっと戻ってきた時もそうだったけど、その後解散になっても何も言いに来ないことに、特にニスタはめちゃくちゃ驚いた表情をしていた。プロタゴ? あいつはいつも通りこっちを睨んでいたよ。

 プロタゴの“いつもの態度”のおかげか、どう見てもニスタが挙動不審だったにもかかわらず、クラスメイトの誰も不審には思わなかった様子だった。

 

 「では今から奴らを斬り捨てにいこうか」

 

 僕が現代に帰還して合流できた後、実習に戻る途中でグスタフはそんなことを言ってきたものだ。

 まあ言いたいことはわかる。過激であるように思えるかもしれないけど、ニスタは僕を殺そうとしたんだ。目には目を……とか言い出すほど僕も安直ではないけど、命に相応といえるだけの報復は必要だ。

 

 けど同時に、報復には機というものがある。殴られたからって、すぐに殴り返すのはただの反射行動だ。それは周りからみれば報復にみえるかもしれないけど、自分で納得できる結果にはならない。

 

 「待って、探りたい事がある」

 「……? ……わかった」

 

 だから止める言葉を返した訳だけど、グスタフは疑問ごと飲み込んでくれた。こういう時の感情コントロールは僕よりむしろグスタフの方ができるから、奴らの顔を見ても暴走はしないだろうと信頼していた。

 ……そして実際に、そうなった訳だしね。

 

 あの時、僕はニスタがゲーム『学園都市ヴァイス』でのイベント中のモーションまで把握しているようなコアゲーマーの前世を持っていると思ったけど、今では違う可能性も頭に浮かんでいる。

 石碑の作動に関する知識は僕と同じように前世を思い出してでもいないと知り得ないと思うものの、それなら“悪役貴族”である僕に対してもっと警戒していてもおかしくない。だってゲームでの『アル・コレオ』の特に序盤での態度はわかりやすく酷い。絵に描いたような尊大な貴族で、庶民に対しては誰彼かまわず当たり散らす始末だ。

 死亡フラグを回避しようと、表向き優等生的な振る舞いを心掛けている今の僕と比べると、それこそ前世持ちを疑ってしかるべき、だ。

 そこから考えて、ニスタはよっぽどの馬鹿か……あるいは、誰かから知識を授けられただけ、という可能性がある。そう考えるとちょっと慎重に探る必要が生じてきたという訳だ。

 

 無理やり押し付けられたパラディファミリーの相談役としてのヴァイスでの仕事も、そろそろ関わることになるだろうし、僕の学園生活は裏も表も忙しくなりそうだ。

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