　雰囲気が変わったとはいっても、グイドはきっとまだ油断している。ここまでの短いやりとりでもわかるくらいの実力者だ、本気ならもう僕は生きていない。あるいは、追い込まれないと本気を出せないタイプなのかもしれない。そういうのは格上には滅法強いけど、格下相手に勝ちきれない側面もある。

　っ！　誰が格下だってェ！　…………いや、落ち着け、僕。脳内漫才をしている場合じゃない。

　「えいっ」

　短い掛け声とともにグイドが踏み込んでくる。さっきまでのへらへらしたものとは違い、真剣さや厳しさを感じさせるような、抑制された声だ。つまり、まだ叫んではいない。あの絶叫がでる前に、なんとかしないといけないってことだ。

　「くっ、この」

　初撃は下げていた左腕での拳打。ただの牽制に見えたそれの、異常な重さにうろたえつつも、なんとか右手で叩いて軌道を逸らした。

　まだ、とっさに魔法を併用できない。……けど、それをやるしか生き残る道はない。

　何せ次に来るのは――

　「は！」

　さっきよりさらに短く、だけどさっきより力のこもった掛け声で、今度はロングソードを振り下ろしてくる。

　ここで地属性魔法をうまく使ってまた逸らしても、その勢いのままさらに次がとんでくるだけだろう。シェイザの剣技はどこかで止めないと勢いを増し続けることを僕は知っている。

　「地（テラ）……火（ヴルカ）！」

　二文字魔法……じゃ、ない。一文字魔法を二連続で発動させた。つまり、拳に硬い岩をまとい、それをグイドの刃に打ち込むと同時に表面で小さな爆発を発生させた。一文字での火魔法の威力なんてしれてるけど、殴りにのせることでそれを補い、かつ意表を突く速さで叩き込んだ。

　「なんだぁ、正気かよこいつ!?」

　爆発音とともに斬撃を跳ね返されたグイドがさすがに驚きながら後退する。レテラは十分な魔法的素養がない人間には聞きとって認識することができない。だから僕が何を発動したかがわからないグイドからすると、発動してすぐに自分で起こした爆発と相殺して消えた岩の籠手は見えなかったようだ。

　そのために、僕が自分の手を犠牲に自爆攻撃をしたとでも思ったんだろう。つまり、今僕の右手が使えなくなったと思い込んでいる？　グイドが“そういう駆け引き”をするタイプにも思えないから、仕掛けるならここだ。

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