第70話

 とっさに出した地属性魔法による籠手は、一度グイドの攻撃を受け流しただけで消えてしまっている。滞留で制御すれば長く身にまとうこともできそうだけど、発動が遅くても大丈夫な状況なら普通に魔法戦をするから意味がない。

 つまり、この燃費が悪く、かつやたらと気疲れする戦い方を、格上相手にやらないといけないってことか。

 

 グイドがもう一度仕掛けてくる。素早い踏み込みの勢いをそのままぶつけてくるような袈裟斬りだ。

 

 「テラ……からの――」

 

 再び同じように岩を腕にまとわせて受け流し、その魔法の籠手が消える時には次の体勢を整える。一旦引こうとしていたグイドの表情が変わるのが見えた。

 

 「ヴルカっ!」

 

 目の前に出した小さな火の塊を拳で打ち、そのまま貫いて火炎拳として放った。

 普通は別々の行動として考えてきた魔法の行使と、体術の身体制御を同時に実行する。発想としては到達したけど、正直頭も体もまだついてきていない。右手と左手で別々の動きをさせるあれみたいだ。ちぐはぐでうまくできている気が正直しない。

 

 けど悪くはないみたいだ。効果はでている。

 

 「へぇ……」

 

 反撃の火炎拳をうまくかわしたグイドだったけど、拳は届いていなくてもまとった炎は僅かに到達していた。その証拠の赤くなった鼻の頭を指でこすって、グイドは徐々に表情からへらへら笑いを減らしていく。

 その気にさせたことをどう思えばいいんだろうね。道化を演じて逃げに徹するっていう手もあったかもしれないと、今更ながらに頭に過ぎる。

 

 「坊主……いや、お前の名は?」

 

 僕の存在がこいつの中でそこら辺の坊主から一段格上げされたらしい。とはいえ、素直に本名名乗るのってまずいよね……たぶん。元の時代に戻ったら名前が変わっていたり、最悪名乗った瞬間に僕が消滅したりとか、考えるだけで寒気がする。

 ラセツの仲間ってくらいに認識しておいてもらうのが、とりあえずは都合がいいか。それなら、一旦そんな感じの偽名をでっちあげて……。

 

 「僕はアッキだ。角はなくても実は鬼なんでね、ラセツはやらせないよ」

 

 ラセツは戻ったら仲間としてこれから働いてもらうつもりだったし、さっき覚悟も示されてしまった。だから僕はこっち側につくぞっていうのを改めて宣言するつもりの冗談だったんだけど……、「実は鬼」がグイド的にはなんでかお気に召したらしい。

 

 「角なし精霊鬼のアッキ……? ははっ! 悪鬼ってことかよお前。いいな、ならアッキを倒して俺も鬼を名乗らせてもらおうか」

 

 何か歴史の一部に触れたような気もするけど、それを考えている余裕なんてもちろんない。さっきまでとは段違いの威圧感で、グイドはロングソードの切っ先をこっちに向けるような構えをとる。柄を握る右手は顔の前で、半身にして前に出た左腕はだらんと下げられている。

 妙な構え……だけど、僕の喉は無意識にごくんと音を鳴らして唾を飲んでいた。

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