第69話

 「おもしれぇなぁ!」

 

 火炎を突っ切った先で、断ち切る緑スラッシンググリーンに直面したグイドが口にしたのがそんな言葉だった。自分の技量を試す機会が嬉しくて仕方がない。そんな感情が容易に読み取れるような表情をしている。

 結局のところグイドがそれをこのタイミングから回避することが可能なのかどうかはわからないけど、やはり奴は向かってくることを選択した。

 

 「おらよ!」

 「は?」

 

 渾身の緑刃はグイドが振り下ろしたロングソードによって、あっさりと断ち切られ、空気に溶けるように消えてしまった。

 驚いて間抜けな声だってでるよ。

 

 このグイドなら腕の一本くらい平気で犠牲にしてでも、何とかしてしまいそうだと身構えていたけど……そんな想定を軽く上回られてしまった。

 

 逃れられない必殺の白炎を無効化したサティに続いて、当たりさえすれば必断の緑刃をグイドに消されてしまった。

 必殺だ必断だと見栄を張っているけど……、実のところ焼灼する白ブレイジングホワイト断ち切る緑スラッシンググリーンも防ぐことはできる。水の魔法で極低温に場を冷やされてしまえば発動さえできるか怪しいとか、強大な魔力で地の魔法を発動して盾とされるといいとこ相殺くらいだろうなとか、そういう話だ。

 ……つまり、魔法というのは規模は魔力量次第だし、制御能力さえあればできることの幅も拡がる。それが本質であるから、どれだけ強大な魔法でも魔法でなら対抗できる、という話だ。

 

 それは魔法使いにとっての常識であって誇りでもあり、僕にとっては驕りになっていたようだ。確かに強力な戦士は魔力で身体能力を強化して信じられない動きをするけど、魔法そのものを“斬った”っていうことはグイドは刀身に魔力を張り巡らして斬撃そのものを魔法と呼べる次元へと高めている。

 いや、上だ下だというものでもないか。魔法も剣技も行き着く先は同じということなのかもしれない。

 

 「そおらっ、どうする?」

 「くっそ」

 

 そのまま目前まで迫ったグイドが振ってきた剣を何とかかわして、後ろに一歩跳び下がった。だけど、距離をとらせてはもらえずそのまま距離を保ってついてこられる。

 

 「どした、どしたぁ?」

 

 へらへらとした笑みを浮かべたまま水平に斬り払い、一旦持ち上げてから袈裟斬りと次々にグイドの攻撃は続く。

 それを必死にかわす僕はというと、もはや悪態をつく余裕もない。

 

 目の前にある憎らしい表情を見ればわかるけど、グイドは手を抜いている。手頃な獲物を仕留める前に弄ぶ肉食獣ってところか?

 冗談じゃない、舐めやがって!

 

 ……とか考えて感情を無駄に昂らせたのが良くなかったらしい。

 

 「こんなもんか?」

 「このっ!」

 

 大きく跳ぶことのできない体勢に、うまく身をかわすことのできないタイミング。この一撃はやられた、詰みってやつだ。

 

 「ととさまっ!」

 

 声が聞こえて目だけを横にやると角を生やした白髪の子供鬼――こっちのラセツ――が見えた。後ろにかばって戦っていたつもりだったけど、いつの間にか位置が動いて横になっていたようだ。

 というか、この期に及んで逃げてなかったのかあの馬鹿食いしん坊鬼め。僕の知ってるお前はなんとかして生き延びていたんだぞ。

 元の時代の方のラセツは……ラセツ……との模擬戦、が頭を過ぎった。……まだ、ここからでもできることはあるか。

 

 「テラ!」

 「お!」

 

 普段あまり使わない地の属性レテラをとっさに発動させて致命的な斬撃を受け流すと、グイドは逆に嬉しそうな声を出しやがった。

 とっさの一文字魔法で出した岩ごときで、達人の斬撃を止めることはできない。薄壁ごと僕も斬られるだけだろう。かといって、僕の格闘技術ではこれ以上凌ぎきれない状況だった。

 だから魔法で生じた硬い岩を腕にまとわせて、籠手として使って剣を逸らしたのだった。

 

 僕を含めた魔法使いは……いや、この世界の人間は魔法使いと戦士を別のものだと認識している。両方使える僕でさえそうだった。魔法は魔法、体術は体術。一つの戦闘で両方使うことはあったとしても順番・・に、だ。

 だけどその常識のタガがあの時外れた。氷の魔法を併用したラセツの攻めに、僕の魔法を消したあの掌底だってグイドみたいな異次元剣術じゃなくてあれは魔法だった。そんな異質な魔法の扱いに相対して、僕もとっさに魔法体術で対抗した。

 

 魔法と体術という別々の“武器”を同時に使う。それが、サティやグイドという一段上の相手に喰らいつくために、超えなきゃいけない壁なのかもしれない。

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