第65話

 なるほど……、悪役貴族『アル・コレオ』の結末の一つについて真実が知れたのはゲーム『学園都市ヴァイス』ファンとしては、正直心が浮つく。……それと同じものが自分の身に降りかかっていなければ、だけど。

 

 そしてこっちは知れて楽しくもないことだけど、ニスタは消滅のレテラを覚えていたらしい。状況があまりに衝撃的過ぎてゆっくり考えている暇もなかったけど、あの状況にあの言動はそういうことで間違いないだろう。

 そう考えるとつじつまがあうことも、いくつかある。

 まず入学式の日のことだ。グスタフから指摘されたことが記憶によみがえる。――「アル君らしくなかったんじゃないか?」というあの言葉。

 あの時の僕は打算とか気分とか、まあそういうこともあるかと思って深くは考えなかったけど。僕がプロタゴの諸々を妙に寛容に受け流した理由はもしかしたら、ニスタが何かしていたからなのかもしれない。

 さらにはさっきのこと。解析を魔法として放つことこそしていなかったけど、僕は副次効果で気配を探ることはしていた。実際に前後の班の気配は把握できていた。なのに、ニスタとプロタゴの双子については、あの瞬間まで見逃していた。

 今にして思えば前の班が離れていくときにしばらく動きを止めていたあれ。あれは双子とすれ違って何かやり取りをしていたのかもしれない。そう考えるとなおのこと、双子の気配だけ読めていなかったことが不自然に思える。

 

 レテラは相性や習熟度によっては、魔法として発現させる以外にも副次効果としてちょっとした現象を起こせることがある。僕にとっては解析がそれで、魔法としてレーダーみたいに使っている時以外にも、気配や相手の魔力量なんかを何となく知ることができる。

 消滅のレテラに、色々なものを“消す”効果なんてものが副次効果としてあるのなら、納得できることではある。つまりニスタが入学式では僕の敵意を、そしてさっきは奴らの気配を、消していたんじゃないか、と。

 

 やたらとプロタゴが敵意をぶつけてくるのも不思議といえば不思議だったけど、消滅を習得していたことも含めて、そうなってくると納得ができるかもしれない。おそらくはニスタの方……、あっちが僕と同じ前世の記憶持ちって可能性だ。それも一部のマニアが調査していただけのはずのあのスイッチの操作法まで知っているような、超の付くコアゲーマー。

 やたらと噛みついてくるけど、魔法の腕は光るものの有る面白い奴、くらいにプロタゴの方を気にしているだけだったけど、ニスタの方こそ無視はできない存在だったってことだ。……とはいえ、それもこれも元の場所に戻ってからの話だね。

 

 

 

 この状況が過去というのが確定だとして、まず浮かぶ解決法は目の前にある装置。コールドスリープ的な装置で疑似的に未来へタイムワープというやつ。けど、目の前にある空の棺は説明書によると歳をとるらしいから残念ながらダメだ。

 僕は魔獣であるラセツみたいに百年封印されても記憶が曖昧になる程度で済んだりはしないからね。

 

 この時点で僕が棺に入ったとして、未来が変わることになるのか……? とか別の方向性で興味深いことはあるけど、そんなことを今考えている場合じゃないか。

 くそっ、せっかく使い方までわかったのに、役立たずだ、これ。

 

 「何か……ないか? 元の場所に戻る方法……。いや、そもそもここが過去だったていうのも推測であって確証は………………ん?」

 

 必死で思考を巡らせていると、ダンジョンの外の方から物音がしたような気がした。西の出口がある方向で、恐らくは外でした大きな音がそっちから聞こえてきた、みたいな感じだった。

 そういえば、光に巻き込まれた影響でくらくらとしていた頭が随分とはっきりとしてきた。これなら解析の副次効果で気配を探るのもいつも通りにできそうな感じだ。

 

 「誰か……、いるな」

 

 やっぱり、人の気配がする。それなりに大きな魔力を持っているようだけど、なんというかただ大きいだけというか、洗練されていなくて未熟な印象だ。

 ……危険かもしれないけど、何もわからないよりはまし、か。

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