第63話

 「――ああぁぁっ!」

 

 視界が光で一杯になってそのまま意識が途絶えそうに――いや、一瞬だけ飛んでたかもしれないけど――なって、耳の奥に残るグスタフの悲鳴でなんとか持ち直す。

 

 「っ! グスタフ!」

 

 光が収まってすぐに閉じていた目を開いたけど、グスタフの姿が見えないし、呼び掛けた声に返事もない。

 

 「くぅ……」

 

 とっさに目は閉じたとはいえ、強烈な光にくらまされた影響でふらつく。

 

 「誰もいなくなってる?」

 

 よろけて左手を石碑について体を支えたけど、その石材の冷たさでなんとか意識がはっきりとしてきた。そして悠長にグスタフを呼んでいる場合じゃないとはっとしたものの、グスタフだけでなくその場には仕掛けてきたあの双子もいなくなっていることに気付く。

 

 仮に自覚がないだけで僕が長時間気絶していたとした場合、グスタフがその僕を置いてどこかへ行くとは考えづらい。突き飛ばして「引け」なんて言ったものの、あの時の血と痛みで繋がった僕を、本質的には気弱でお人好しな部分があるグスタフは必ず見捨てない。

 けど事実としてこの場には今僕しかいなくて、グスタフや双子の死体が転がっていたりもしない。いや、それどころか血痕とか破損した装備品とか、そういう争った形跡というものもまるでない。なんだったらさっき光に飲まれる前より床とか壁とかが綺麗にすら見えるくらいだ。

 

 まあ、馬鹿なことを考えていないで、状況を整理しよう。

 双子の妹の方、ニスタが操作して僕が飲まれた光は、ゲーム『学園都市ヴァイス』での『アル・コレオ』最初の死亡イベントで間違いないだろう。となると、僕はあの次元の狭間に巻き込まれたということになる。

 けど……。

 

 「そのまま……だよね」

 

 化け物が徘徊する謎の異空間とかではないし、見知らぬどこかでもない。実は一番恐れていた、クソッタレな前世の世界に戻される……とかでもない。

 体を支えていた手を下ろして石碑を見る。

 

 「これも、そのままだね。確か通路だって書いてあるんだっけか」

 

 グスタフからそう聞いたのはついさっきのことだけど、何故か随分と前のようにも感じる。……どうにも光にくらまされた影響が消えなくて、頭がはっきりとしない。

 

 「実習中のダンジョンから移動してない……。何も変わってなくて不気味なくらいだ…………って、はあ!?」

 

 独り言を呟きつつきょろきょろとしていた僕は、何となく回り込んで見た石碑の裏にある壁に、冴えない頭をがつんとやられるような衝撃を受けることとなった。

 

 「消滅……の、レテラ?」

 

 そこは……、削られた痕跡だけがあったはずのそこには、綺麗な状態の壁があって……消滅のレテラが刻まれていたからだった。

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