第51話
「は……? 光?」
蓋が半分開いて見えたのは石の断面でも空洞でもなく、光だった。内部……なのか断面なのかはわからない部分が発光している。目が眩むほどの光量ではないけど、向こうが見通せないくらいではあるから、薄暗いはずのダンジョン内部も明るくなっている。
「……」
無言で集中するグスタフが重心を少しだけ前に移したのを感じた。何かが出てきた時には即座に先制攻撃を仕掛ける、という意図なのだろう。
「様子見する」
「……っ? ……」
だから僕が制止するようなことを言うと、グスタフは一瞬戸惑ったようだった。普通に考えれば、こんな状況なら逃げか攻撃の二択しかない。とどまって様子見なんてのは悪手だろう。
けど僕としてはどうしても気になる、という好奇心を優先したい気持ちだった。これは多分、ゲーム『学園都市ヴァイス』をやり込んだと自負していたからこその感情だと思う。
そして蓋は完全に開ききり、ずしんと重々しい音とともに倒れた。後には棺の本体が残り、その断面を覆う光だけが見えている。
「手……」
「女の手だ」
その光の向こうからこちらへ指し伸ばされたのは浅黒い肌をした細い腕だった。グスタフが言うように女のものであろうそれは、華奢なのではなく、極限まで鍛え上げたが故の凄みのようなものを感じる。さらにシミもくすみも何もない異様に綺麗な皮膚と、やけに鋭利な爪が何となく人外めいた印象を与えてくる。
「どういう……ことだ」
驚きの呟きは僕の口からこぼれていた。衝撃のあまりどこか客観的というか、他人ごとのような感覚に陥る。
空を探るようにしていた腕に続いて、肩、胴が現れ、破れた布切れをまとっているだけであることに面食らう暇もなく、最も特徴的なその頭部が出てきたからだった。
「鬼……精霊鬼……だと!? 大昔に討伐されたはずだ!」
僕以上に狼狽えるグスタフが言ったように、それは鬼だった。褐色の肌をした体の腰くらいまである、雪のように白い髪。薄く開かれた目にある瞳は血のように赤く不気味だ。そして額にある黒い突起は、角としか言いようのないもので――それは間違いなく鬼と呼ばれる存在だった。
ゲーム『学園都市ヴァイス』の魔獣に鬼はいない。近いところでオーガはいたけど、あれに角は生えていないし、もっと人間離れした姿をしていた。種族としても、エルフやドワーフもいないあの世界設定で、鬼族みたいなのがいるっていうのは聞いたことがない。
だけど概念としては存在していた。グスタフのシェイザ家が、異名として“鬼の一族”と呼ばれているという設定があった。例えに使われるということは何かしらの形で存在するのだろうけど、正直僕はこれまで深くは考えてこなかった。前世の世界でも、桃太郎を読んだからって「鬼って何だろう?」と熟考する人間は多くはないだろう。
なのに、突然降って湧いたこの状況で、僕は鬼としか考えられないモノと向き合うはめになっていた。
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