第50話
ん? 何か……?
「地響き……か? いや、これは――」
僕と同時に異常に気付いたグスタフが地面を見てから、壁、天井と視線を彷徨わせて、最後にある一点へと行き着く。
うん、僕もそう思う。
「これだね」
空の棺。ただの石の塊でしかないはずのそれが、微振動している。
ゲーム『学園都市ヴァイス』で、このシェイザ領東の遺跡に焦点が当たるのは二回。プレイヤーが戦闘・戦術科を選んだ場合の実習イベントと、キャラクターが育ってから消滅のレテラを習得するため、だ。
単純な内部構造のこの小さなダンジョンには、ゲームでも確かにこの空の棺が存在したけど、それにまつわるイベントなんてなかったはずだ。
「っと」
「アル君、後ろに」
隠し要素発見に気が逸り過ぎていたらしい。いつの間にか空の棺にかなり近づいていた僕は、グスタフに肩を引っ張られて少し冷静さを取り戻す。
微振動する棺から数歩離れた位置にグスタフは剣を抜いて身構え、僕はそのすぐ後ろに立つ形となった。このくらい離れていれば、グスタフは大抵のことには剣一本で対処できるし、数瞬でいいから時間を稼いでくれれば後は僕が何とかできる。
「なんだ?」
グスタフが剣を握る手にも力がこもっている。
「棺が、開こうとしている?」
僕も思わず確認するように呟いてしまう。解析の魔法は失敗すれば何もわからないだけで、誤認することなんてない。つまり石と読めたというからには、あれは棺っぽいだけの石の塊で間違いなく、開くとか中身とかそんなのはない。
……はずだった。
「目くらましの準備を」
グスタフの後頭部しか僕からは見えていないけど、首筋に汗が伝っていて、緊張しているようだ。まあ、当たり前か……“知ってる”ことの多いはずの僕にしても、想定外すぎて手に汗が滲んでいる。
だから、グスタフの言うように撤退を前提に構えておくべきだろう。
「わかってる」
そう確認の言葉を返して、とっさに発動できるように光属性の魔法を頭の中に予備展開しておく。ここは薄暗い場所だ、どんな魔獣が襲ってきても、この奇襲なら有効だろう。
……いや、目の見えない種類の魔獣って可能性もあるのか。
しまった、うだうだと考える時間はもうない。
「くるぞっ、アル君」
グスタフの合図にあわせた訳でもないだろうけど、微振動していた棺の蓋部分が徐々にずれ始めた。
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