第49話
「ここが最奥なのか……?」
ただの石造りの通路が急に開けたところまできて、グスタフも一息つきつつ確認してくる。全力でなかったであろうとはいえ教員にすら勝ってしまうグスタフといえど、薄暗くて狭い通路を歩いてくるのは精神的に疲れるらしい。
この五年鍛えてきた僕らはダンジョンに潜るのも経験したけど、さすがに十五歳やそこらで何事にも動じない精神力なんて身につくものではないよね。
僕? 僕はちょっと他に気になるところがあって、そっちに意識が向いていたから。
何せこのダンジョン、僕にとっては初めて来る場所じゃない。ゲーム『学園都市ヴァイス』で何度もきたことのある場所だ。
ゲームと現実では違う……という意見も聞こえてきそうだけど、まさにそう。だからこそ、楽しいというか興味深い。暗闇で見るスケルトンの不気味さとか、湿度高めの空気とか、冷やりとした石壁とか、そういうのだ。
今日のルートの中で際立って特徴的なのは、何といってもこの最奥部にある。
「空の棺……だな」
「そうだね」
グスタフが口にしたように、ここにある縦長の四角い石の塊は“空の棺”と呼ばれている。ゲームでもその名前以外には何も説明なく、隠し要素を疑って検証したプレイヤーは多くてもここに何かを見つけた人は誰もいなかったはずだ。
「棺……ねぇ」
表面を軽く撫でながら思わず呟いた。棺というのは見たまま呼ばれているだけなのだろう。人間が一人か二人余裕で入りそうな大きさのそれは、ちょうど蓋っぽいところに線まで入っているのが確認できる。
けど開くことはできず、壊してしまうまでもなく……。
「
手の平の先からすぐ近くまで範囲を絞って解析の魔力を飛ばす。ちょうど棺をカバーする範囲で探ってみたという訳だ。
使い手の少ない解析のレテラとはいえ、国の上層部の動かせる人材にはさすがにいないはずがない。だからこの手の非破壊検査はとっくの昔に実施済みで、だから“空の”なんだろうけど……、自分でやって確かめてみたいっていうのが人情というものだ。
「空とは言われているが、実際には内部は空洞ではないそうだな」
ちょうど今探って知ったのと同じ内容を、グスタフが言っている。そうか、シェイザ領にある遺跡なんだし、ある程度はグスタフも詳しくて不思議はないのか。
「そうだね、中まで石だ。虫の死骸が入る隙間すらないよ」
ちょっとだけ残念な気持ちでいったけど、グスタフの方は当然という表情のままだった。古代のミイラとかあったら、発掘隊ごっこみたいで楽しそうだったんだけどな。それに何よりゲーム『学園都市ヴァイス』プレイヤーとして、誰も知らなかった隠し要素を知るという名誉は見過ごせない。
まあ、何もなかったんだけど。
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