第48話

 戦闘・戦術科の一年生が初めて行う実習は、シェイザ領にある小規模ダンジョンの探索だ。といってもヴァイスからは近場も近場、東西に長細いシェイザ領の東端にある遺跡がそのダンジョンだから、日帰りで行くダンジョン探索となる。

 あと、この実習は丸一日かける探索を二回の二日間が予定されていて、その間は一週間が空けられる。一回やってみて、一週間かけて反省と修正をして、二回目で確認しようということだ。

 

 そのダンジョンは名前もついていないくらい小規模なもので、シェイザ領東部の遺跡とか呼ばれるのが一般的だけど、探索は既にしつくされている。その結果として、二カ所の入り口が二つのルートで繋がっている構造であることも判明している。つまり、シェイザ領の東端と、そこから少しだけ西へ行った場所の二カ所を左右の端とする歪な楕円になっているということだ。

 目当てのレテラは二回目で行くルートにあったはずだから、一回目はまあ本当にただの実習になるかな。指示を無視して向かってもいいんだけど……、ここで教員からの不興を買う意味も特にない。

 

 

 

 ということで、何も気負わずに始まった実習の一日目。僕とグスタフはシェイザ領東の遺跡内を歩いていた。

 生徒の裁量で二人から四人までのパーティで行う実習だから、当然僕らはこういう組み合わせとなった。正直にいってユーカが入りたそうにちらちらとこちらを窺っていたのは気付いていたけど、ついてこられても色々と不都合だから無視しておいた。鈍感系ってやつも、使いようによっては便利なものだ。

 

 あと、当然学園生ではないライラとサイラもこのパーティにいる訳がないんだけど……、実はダンジョンの近くにまではこっそりと距離を離してついてきている。本当はヴァイスで情報収集でもしててもらいたかったけど、色々あって今は不安そうだったから、もしものためのという言い訳を聞き入れて許可した。

 

 とはいえ、ダンジョン入り口には時間を置いてどんどんと入っていくために待機している生徒に、それを監督する教員もいるから、近くといっても視認できない程度には距離をとらせているけど。

 

 今回はダンジョン入り口というのは遺跡の東側。そこから入って最奥――つまり全体のちょうど中央地点――まで行って帰ってくるというのが実習内容だ。その際には別に目印をつけてきたり何かを拾って帰ってきたりはしない。これは試験じゃないからね、ズルをしたい奴は勝手にしろということなんだろう。

 ……まあ、十中八九実戦的な職に就くであろう戦闘・戦術科の学生が、己を鍛えるということにおいて手抜きなんてするはずがないから、その教員の姿勢は至極正しいんだけどね。

 

 「ふっ、はっ!」

 「ヴェント滞留スタレ

 

 特に罠も何もない一本道。ただしそれなりに強い魔獣――学園の新入生にとっては――がどこからともなく湧いてくるダンジョン内を、グスタフは無造作に剣を振り、それが届かない位置には僕が魔法の竜巻を発生させる。

 

 「よし、最奥はこの先かな」

 

 雑に、しかし一切の討ち漏らしなく殲滅したスケルトンが消えた後で、残った硬骨を拾いつつ先に進んでいく。

 魔獣は様々な原因から発生するけど、共通するのは魔力生物とでもいえる存在であるということだ。だから、絶命させれば霞のように消えてしまう。その際に特に強力に物質化していた部位は残るから、冒険者なんかはそれを拾って討伐の証拠としたり、売ってお金にしたりする。

 一応は貴族子弟である僕とグスタフに、スケルトンの硬骨程度での小銭稼ぎが必要であるかはともかく……、これが実習なんだから怠る訳にもいかない。僕は学園では優等生を目指す方針なわけだしね。

 

 スケルトンという魔獣はすごく特殊で、個体によって強さに大きな差がある。そしてこの遺跡に発生するのは当然弱い方のものであるから、僕とグスタフが揃って苦戦どころか、歩みを遅くさせられることすらほぼない。

 歩きながら倒し、そのまま素材を拾いつつ、進んできた。だから、タイミング的にはもっと手前ですれ違うはずだったひとつ前のグループとも、最奥直前でようやく顔を合わせたくらいだ。向こうはその事実に驚き、こっちはクラスメイトであるはずの顔があんまり覚えてなくて気まずくて、お互いに変な空気ですれ違っただけだけど。

 

 そのくらいの時間間隔で再湧きしているこのダンジョンのスケルトンって実は怖くない? とか、折り返した帰りには前のグループを追い抜きそうだけどさすがに加減するべきなの? とか考えつつも、つつがなく僕らは最奥へと辿り着いた。

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