第47話
「それで好都合とは、何だったんだ?」
ペッシなんとかだかを排除して手に入れた拠点にて、グスタフに尋ねられた。
「何の話でしょう?」
「なの?」
ライラとサイラは不思議そうな顔。教室には同行していないんだから当然だ。とはいえ、優秀な秘書だけど、どこか自分を下に見過ぎるきらいのあるライラが、僕とグスタフの会話にこうして言葉を挟むのは珍しいことだ。
普段と違う行動をとるあたり、やっぱり僕ら全員がサティたちに手も足も出なかったことを引きずっているんだろう。
「今後の大まかな行動方針なんだけど……」
切り出した僕の言葉は質問に直接答えるものじゃなかったけど、三人はじっと耳を傾けている。
「僕らは強くならないといけない」
そして続けた言葉に、全員が揃って頷いた。
ドン・パラディであるサティからは、相談役である僕をヴァイス内にある下部組織に派遣すると指示されていた。準備が整えばその下部組織の方から連絡があるということと共に、あのレストランで目を覚ました僕の横に置かれていた紙切れに書かれてあった。
ゲーム『学園都市ヴァイス』と同じなら、ヴァイシャル学園の影響力が強いここでは裏組織も大きな規模ではなく、パラディファミリーの下部組織といえども小規模な組織であるはずだ。義理人情を重んじるタイプの昔気質な人物が、狂人であるサティとは折り合いが悪かったためにコルレオンの本部を追い出されて、下部組織で長を務めている。
まあそんな任侠映画の親分みたいな人物はゲームの『アル・コレオ』とも当然相性が悪くて、これもやっぱり悪役貴族『アル・コレオ』を“曇らせる”ための一要因な訳だけど……、それは今はいい。
この“僕”がそんな人物からどう思われるかなんて考えるだけ無駄だし、学園の子供たちとは違って半端に取り繕っても見透かされるだけだろう。であれば結局のところ必要なのは強さだ。
それはまあ現状で十分だと、ほんの少し前まで思っていたから、このことを深くは考えていなかったけど、今となってはこれじゃ足りない。
…………ちょっと思う所としては、親分肌な下部組織の長には、包み隠さず事情を明かして、僕の目的が純粋に生きることにあると話せば親身になってくれそうな気もする。が、誰彼構わず僕の秘密を話してしまうのはやっぱり憚られる。この先ずっとで考えても、秘密を明かせるのは精々あと一人くらいに留めるべきじゃないかと思っているんだよね。
「それで、僕個人が強くなるのに必要なものが……」
「まさか実習のダンジョンにあったということか?」
「そのまさか」
察しのいいグスタフに思わず笑みを浮かべて僕は肯定した。
「そうか、アル君が強くなればライラも……。となると俺は俺で鍛え直さないといけないな」
「ご主人様に教えてもらえるライラちゃんがうらやましいけれど、サイラってばグスタフ様で我慢するの」
「…………」
あまりにもあんまりなことをいうサイラに僕は今度は苦い顔となる。グスタフは無表情を維持しているけど、口の端がひくっとなったのを僕は見逃さなかった。
信頼できる仲間を増やして、アル軍団としての強化も避けては通れないけど、まずは何より個々人の強化だ。僕としては実習で向かうダンジョンを見逃す手はない。
ゲーム『学園都市ヴァイス』の通りなら、そこで習得できるレテラは消滅。この世界には存在しない――少なくとも表向きでは――はずの十二番目の魔法文字だ。
ちょっと物騒な字面だけど、人や物を消し飛ばしたりできるようなものではない。魔法だから、消せるのもまた魔法に限られる。
ゲーム的にどうだったかというと、うまくぶつけることでいかに強力な魔法でもそれを構成する魔力ごと消せるというものだった。つまりは対魔法専用の“パリィ”だ。防御だと確実な代わりにどうしてもダメージを受けるけど、消滅のレテラによるパリィだと成功させるのが難しい代わりにうまくいけばノーダメージで済む。
上級者の手に掛かれば切り札とも成り得る強力なレテラだけど、例によってレテラは習得できる条件がそろっていないと認識することができない。ストーリー初期のイベントでは何もなかったダンジョンで、キャラクターが成長してから訪れると強力な要素が発見されるという……まぁゲームあるあるってやつだね。
ちなみにこれは予想というか勘でしかないけど……、サティのあれは消滅のレテラではなかったと思う。あいつは本当に魔法使いではないという手応えだった。一流の戦士は時に魔法じみた特殊能力を開花させることもあるから、それじゃないかと考えるのが妥当だ。
そして対サティでいうと消滅のレテラは特に役立つものじゃないから、今度の実習でうまく事が運んでも、それだけじゃ足りないってことだ。グスタフの訓練相手という意味でも……、もう一人くらい強力な戦士が仲間に欲しいんだけど、焦って変なのを懐に入れるのも怖いというのが本音ではある。
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