第41話
「お連れ様はこちらでお待ちください。あとはこちらの者がもてなしますので」
使いとして現れたのはタキシードみたいだけど動きやすいようになっている服をきた大柄な女だ。なんとグスタフと比べても見劣りしないくらいだ。
とはいっても怖いという雰囲気ではない。むしろ迫力より色気を感じさせるような、何とも不思議な女だった。こんな格好をさせているあたり、秘書を気取っているんだろうけど……。
ちなみにライラがメイド服なのは本人のたっての希望だ。僕は好きな格好をしろと何度かいったから、これは僕の趣味では断じてない。サイラも基本的にはライラに従うから、あの半袖メイド服だし。
そして僕と一緒にいたグスタフとライラを“もてなして”くれるらしいのは対照的に小柄な女。こちらは顔も子供にしかみえないけど、スーツみたいな格好が妙に似合っているように、内側からは見た目通りの年齢ではないという雰囲気が滲みだしている。
こいつらがヴィオレンツァとインガンノ……、ドン・パラディの最側近どもか。
「父上も関係する用事らしいから行ってくるよ。グスタフ、また明日学園で。……あ、ライラはサイラと一緒に明日の授業の用意をしておいて」
我ながら白々しい笑顔で告げる。
「……ああ、わかった。また明日」
「行ってらっしゃいませ。つつがなく進めますので、どうぞご安心を」
グスタフは頷き、ライラは丁寧に腰を折っている。この状況は事前に仲間たちと予測していたこと、そしてさっきの僕の言葉は取り決めておいた合言葉だ。サイラと一緒に何かを、と指示するのは、近くに潜んでいるはずのサイラも呼び出して全員で事に当たれ、というパターン。
僕を案内したあとは、この大女も戻って合流するんだろうし、この二人が相手となると出し惜しみはきっと悪手だ。
「……」
「どうされました、アル様?」
「いや、なんでもないよ」
短くライラを見ていた僕に目敏く気付いて使者の大女ことヴィオレンツァが不思議そうにする。一瞬手を口元にあてたライラは、イヌ笛のような特注の笛を吹いたはずだ。僕らの間での通称――サイラ笛。人間離れした身体能力のグスタフにすら全く聞き取れない高音を、それも小さく鳴らす笛だ。
これは名称通りにサイラにだけ聞こえる合図。僕は自分の指示が滞りなく伝わったことに改めてこの五年に満足を覚えながら、素直に歩き出した。
さあ、この先にいるはずだ。気迫で負けないように気合いを入れ直せ。そして都合のいい救いに縋るな、ここより先には悪意しかないと覚悟しろ。僕は悪役、血と痛みの先にこそ生き残る道があることを忘れるな。
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