第40話
ゲーム『学園都市ヴァイス』において、主人公にとっての敵役『アル・コレオ』は、学園入学後程なくして裏組織パラディファミリーの首領へと就任する。だけど『アル・コレオ』がいつどんな風にそのイベントを迎えるかは前世の僕を含めたどのプレイヤーも知らない。主人公でなければ主要な味方でもない悪役貴族に起きた出来事を逐一詳しく描写する訳がないから、当然のことだ。
とはいえ、わかっていることと予想がついていることもある。
わかっていることは僕に引き継がせる前の首領は、叔父にあたるサティだ。とっくの昔に出家しているコレオ家とは関係がない人間であるばかりか表向きは死んだことになっているけど、父上と血のつながった兄弟であり、とてもそうは思えないほど父上とは性格の違う人物。
まあこれまでの僕が探れる範囲での情報にはなるけど、サティは相当に凶暴な人格破綻者で、いつ何をするかわからない狂気が怖ろしさとなってパラディファミリーをがっちりと掌握しているようだ。
予想がついていることは、その情報から考えて、おそらくすんなりとは引き継がせないだろうなということ。少なくとも名目上は僕を次のドン・パラディへと据えないとコレオ家のみならずフルト王国の王族含む貴族全体が許さない。
だけど、裏社会に君臨する狂人がすんなりと決め事にしたがって己の地位を譲り渡すわけがないことも僕はよく知っている。今となっては随分薄れて微かになったゲーム知識以外の前世の記憶だけど……、この部分に関しては本当に強く警鐘が頭の中に鳴っている。
とはいえ、パラディファミリーという巨大な組織の力が僕を圧倒するものだということは誰にだってわかっている。そんなものをわざわざ誇示しになんてこないだろう。「お前がこれから引き継ぐのはこんなに巨大な力なんだ……」みたいなのは悪役じゃなくて主役側の師匠キャラがやることだ。
その上でマウントをとるとなると、サティその人と最側近だけで僕を叩きのめしに来るんじゃないかなぁと予想している。「ガキがつけあがるなよ」ってやつだ。
だからこその、この五年間だった。僕はグスタフを相棒として信頼を得て、ライラとサイラの姉妹から強固な忠誠を得た。魔法の達人であるマエストロ、鬼の一族の剣士、情報収集と分析に長けた才人、そして何をしでかすか読めない狂人。上出来も上出来、最悪は僕一人で強くなろうとしていたけど、結果として超少数精鋭の組織と呼べるほどのものを僕は手中にできた。
そう、準備は万全。
「コレオ家の次男、アル様をお迎えに上がりました。当主様にもご承知いただいている用件ですので、安心して来てください」
だから、前触れなく学園から寮へ帰る途中に声を掛けて虚を突いたつもりかもしれないけど、それは甘いぞ。サティ……いや、ドン・パラディ、今から会いに行くのは何も知らない愚かな子供じゃないってことを、思い知らせてやろうじゃないか。
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