第28話

 「あぁ? 誰だ女呼んだのは。ここには部外者は呼ぶんじゃねぇってペッシオさんに言われてんだろうが」

 

 拠点候補その三となる元商店。サイラが叩いた扉を開けて出てきた汚い風体の男が発した言葉がそれだった。

 非合法の組織に所属することもできないような、そんな表からも裏からもはじき出された連中。そうした奴らがたまたま見つけた“不思議と誰も出入りしない建物”に入り浸るようになったのがここなんだろう。

 だけど言葉の端から、最低限の統制をとる者がいるということや、この場所をちゃんと守るべき場所と認識しているあたりは、いうほど低劣な奴らではないのかもしれない。……そんなことは、どうでもいいけど。

 

 あと、その最低限の統制をとる者が、サイラの報告していた「戦えそうなの」かな。

 

 「ちっ――」

 

 にこにこと笑うだけのサイラに業を煮やした男は舌打ちを一つすると、振り返って建物の中に顔を向け、大きく息を吸う。中にいる連中に何かしら声を掛けようとしているんだろう。

 

 「うふっ」

 「ぁ?…………」

 

 サイラは小さく笑いをこぼし、貫手を男の背中から突き込んでいた。何が起こったのか理解できなかった様子の男は、サイラが肘まで刺さった右腕を引き抜いたところで、生気をなくして崩れ落ちる。

 

 「えへへ」

 

 嬉しそうに赤黒く汚れた右腕を見ていたサイラは、そのまま軽い足取りで建物へと侵入する。こういうことがよくあるから、サイラのメイド服は季節を問わずに半袖だ。

 

 「よし、僕らもいこうか」

 「はい…………サイラがご主人様にご迷惑を掛けないと良いのですが……」

 「あいつなら大丈夫だろう。戦いに……いや、殺しに関しては天才だ」

 

 離れて見ていた場所から動き出そうとすると、ライラは妹を心配しているようだった。まあいくつになっても妹は妹ということなんだろうけど、僕としてもグスタフに同意だ。仕事が護衛とか捕獲とかならともかく、排除だからこそ安心して任せた訳だしね。

 

 「あたしはここを簡単に片付けてから、行きます」

 

 玄関先で人体に穴をあけたせいで、路地の方にまで色々と飛び散っている。

 

 「うん、悪いね」

 「とんでもございません」

 

 僕はグスタフを後ろに連れて、中へと入っていく。

 さっきから今まで、物音はしたけど叫び声とか怒鳴り声は聞こえてこない。つまり、サイラはうまくやっているんだろうけど、「安心して任せた」とか言ったくせに足がやや速くなるのはやっぱりあの子のぽやぽやとした普段の雰囲気のせいだろうか。

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