第22話
ゲーム『学園都市ヴァイス』に登場するキャラクター『キサラギ・ボーライ』。長い黒髪をしたスタイルの良い女性で、二年生の秋に生徒会長へと就任する。正義感の強い人物として後輩たちから慕われ、教員からも信頼あつい。
キャラクターデザインの良さもあって、プレイヤーからも人気があったけど……、逆に愛がないプレイヤーからはパーティ入りを忌避されていた。戦闘において役に立たないからだ。
これは弱いという訳ではなくて、実際にかなり高い能力の魔法師だ。
そう、魔法師。
ゲームと同じなら、この時点で既に、目の前のキサラギ先輩は四つのレテラを同時行使可能なマエストロへと到達しているはずだ。
おそらくは、だからこそっ――
「受けてみたまえ、アル君!
舞台役者のように朗々と唱えられたのは二重強化の火球射出。恐ろしいのは強化を二つ重ねているにもかかわらず、飛んでくるのは拳大の小さな火球であることだ。それだけ、魔法が威力として凝縮されているということが見ただけでわかる。
これはゲームと同じ。使える中で最大威力の攻撃魔法を当たろうと当たるまいととにかく撃つ。そして短期的な最大火力のみを考えるAIは、『キサラギ・ボーライ』を攻撃馬鹿として印象付けていた。
現実でいえば目の前の戦闘に全力を尽くすのはわかる思考だし、ゲームの制作者は武士っぽさということで意図的にそうしたんだろう。だけど、リソース管理も大事なRPGという性質上、イノシシはいらん、と判断されがちだった訳だな。
まあ、そのことは一対一での模擬戦をする、今この状況には関係ないんだけど、ね。
とはいえ、キサラギ先輩の攻撃パターンをある程度知っているこっちが有利で、僕の手の内を知らない向こうが不利なのはいうまでもない。
受験生ごときと舐めたそのツケ、払ってもらおうかっ!
「
キサラギ先輩の仕掛けてきたものより一つ少ない三つのレテラ。だからこそ後だしでも迎撃としては十分に間に合った。
これは普通に発動させると少なめの水の塊がその辺をふよふよと漂うという意味のないものになる。だけど魔法というものはレテラをどう応用するかが腕前を問われる。今回の場合、僕は水を霧のように散るイメージ、そして妨害は自身を弱めるのではなく妨害効果として内包するようにイメージした。
つまり、これで……魔法効果を妨害する霧を展開できる!
「やるね!」
弱められたことで飛翔速度まで低下した火球を悠々とかわすと、キサラギ先輩はにこりと笑みを深めていた。
「……っ! それはどうも、お褒めいただいて光栄ですよ」
僕はというと、余裕を装いつつも背後から感じる熱のせいで、逆に背中を冷や汗が伝う。僕の妨害効果を受けてもこの威力かよ……。
「
そしてキサラギ先輩は再び火属性レテラから始まる魔法を構築し始める。
――やっぱり!
一つ目、キサラギ先輩は高火力魔法をひたすら連発する戦闘スタイル。
そして二つ目、この模擬戦を魔法師同士による魔法射撃戦だと思っている。
“実戦”形式だっつったのは、そっちだよなァ! キサラギ先輩ィ!
「
この位の距離、そして規模であれば、今の僕は属性レテラの単発動である程度のことはできる。十歳のあの日に風の単発動に助けられたからこそ、磨いてきた技術だ。
「――ひゃっ、え、きゃあ!」
突然視界を奪われたことで混乱をきたしたキサラギ先輩が意外と可愛い悲鳴を上げた。腰を抜かさなかったのはいいけど、発動中だった魔法の次弾は雲散霧消したことが散っていく膨大な魔力から察せられた。
「
そして属性レテラの単発動を再び、今度は得意の風属性で実行する。ノーモーションから加速するこの突撃は武術の達人ほど驚いてくれる――実例はグスタフ――けど、残念ながら目の辺りだけ闇にまとわりつかれたままのキサラギ先輩は無反応。
一気に距離が詰まり、目を隠しても整っていることがわかるその顔がすぐそこに迫る。
そして低空をすっ飛んでいく体をうまく捻って肩を押し出し、体当たりの態勢で勢いは殺さずにぶち当たっていく。
……殴るよりもこの方がかわしにくいし、全身に確実なダメージを与えられる。
「うらぁっ!」
「がっ! ……………………」
衝突の瞬間には肺から押し出された苦鳴を漏らしたキサラギ先輩は、床を転がっていった後には完全に意識を失ってぐったりと無言になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます