第21話
「以上です」
「……っ! で、では――」
僕がちょび髭の教員に向かって一礼すると、止まっていた時間が動き出したかのように周囲が騒めく。
そして頬を引きつらせたちょび髭教員が僕に下がるよう促そうとしたところで、思いもよらない所から横やりが入る。
「いいや、まだだ!」
これまで黙って見学していたキサラギ先輩だった。長い黒髪をなびかせながら右腕を振り上げた彼女は、その手をはっきりと僕へと向けている。
手足が長くてメリハリあるスタイルのキサラギ先輩が、片手を腰に当ててそんな風にしているととても絵になっている。だから一部の受験生が「はぁう」とか「おお」とか感嘆を声に出しているのも仕方がないが、僕としてはただただ意味がわからないだけだ。
「き、キサラギ君? どうしたんだね?」
僕が聞くよりも前に、ちょび髭の教員が間に入ってくれた。頑張れ、ちょび髭。僕はこれで合格する自信があるから、もう帰りたいんだ。
「私との実戦形式もあった方がいいのではないでしょうか?」
近づいてきたキサラギ先輩が、かつんと踵を鳴らして足を止め、ちょび髭教員に向かってなんとも妖艶な声で提案する。ただお堅い武士娘ってだけでなく、こういう部分もあるから人気キャラだったんだよなぁ。
……というか実戦? 今ここで戦えって提案されてる? なんでさ?
「理由をお聞かせいただいてもかまいませんか?」
「君の身のこなしから、かなりの実力を感じ取ったのだよ、私は。実力を見せる機会が増えるのは嬉しいだろう?」
「……で、では頑張りなさい」
いや「嬉しいだろう?」じゃないよ。嬉しくないよ全然。それにちょび髭先生もさりげなく僕らから距離をとってるし……。
「拒否権など最初からない、と?」
「……ふふ」
せめてと不満をぶつけてみたけど、笑って流されてしまう。なんだよ、この強引な展開は。ゲーム『学園都市ヴァイス』では入学から始まるから試験での出来事なんて知らないけど、グスタフのムービーがあったくらいなんだから、こんなイベントがあれば何かしら言及されていたはずだ。
つまりゲームにはなかった展開へと入っているということで、それは将来の死亡フラグを回避したい僕としては歓迎すべきことなんだけど……。
「では……っ」
そうこう考えている内に、ある程度の距離をとったキサラギ先輩が勝手に始めようとしている。まあ試合じゃなくて実力試験での実技披露だから、審判も何もないんだけどさ。一方的過ぎるだろ……。
これって要するに僕のことを舐めてるってことだよなァ?
…………。
まあ、いいよ。どの道実力を隠して大人しく過ごすなんてつもりはなかったし、遅かれ早かれ表向きにも実力の誇示はするつもりだった。マエストロであることもさっき見せたばっかりだし。
距離を取って始めたことからしても、キサラギ先輩は“自分と同じ”魔法使いとの魔法比べをするつもりみたいだね。なら思い知らせてやるよ、僕は『キサラギ・ボーライ』のことはその強みも弱さも知っているんだから。
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