第20話
「次、アル・コレオ君! ……技能を見て欲しいということだったね?」
「ええ、それで間違いありません」
お決まりの呼び出しに、お決まりの確認。それに他と変わり映えのない返事を返して僕は演習場の中央へと進み出る。
こんなところでアピールも何もないからね。というか、むしろ目立たないくらいでちょうどいいくらいだ。……というのも、ゲーム『学園都市ヴァイス』での『アル・コレオ』はまさに悪役貴族であった訳で、変貌していく前であっても中々の悪人振りだった。
そして今の僕にしても十歳になるまでは“そう”だった訳だから……、貴族社会では噂が娯楽で情報は武器であることと合わせるとつまり……、学園で悪役貴族扱いされる下地はできてしまっている、ということになる。
この四年に関しては、裏で色々と仕込みはしつつも、一応は優等生的に過ごしてきた……つもりだ。コルレオンを訪れた行商人に見本と称して商品をねだったりしてないし、子供のくせに庶民の女の子に手を出そうとしたりもしていない。当然、喧嘩や揉め事だって一つも表沙汰になるような下手は打っていない。
いや、それにしても『アル・コレオ』は本当に下種いな。そんないかにも“ざまあ”要因みたいな嫌われ役が、物語の進行とともに徐々に変貌して本当の巨悪になっていくというプロットが多くのプレイヤーには評価されていたみたいだけど……、生まれ変わった今になっても納得いかないな。
まあ、混じった“俺”の影響で随分と血の臭いに親しむことになった今の人生も、ゲーム開始当初の『アル・コレオ』は眉をしかめそうではあるね。つまりどっちもどっちなのか、どうでもいいけど。
「では、どうぞ。落ち着いてやりなさい」
ちょび髭の素敵な教員が合図をだした。
魔法の実技では、おそらくほとんどの受験生が技能を見て欲しいと申請している。今言われた通りに、落ち着いた状態の方が実力を発揮できるからね。
武器を扱うのが得意というほどではなく、魔法だけでもアピールできるほどの実力ではない、という場合に身のこなしや瞬時の状況判断に関しての練度を高めて魔法戦闘としてみせるというくらいだろう、魔法で実戦よりでの申請をするのは。
まあ、つまり何が言いたいかというと……。四年鍛えた今の僕であれば、ただ魔法を見せるだけで充分だと確信している、ということだ。
「いきます」
特に的とかはない。ただ演習場の広い空間に向かって魔法をぶっぱなすだけ。狙いの技術とかは実戦能力に分類されるものだからね。どんな魔法を使えるのかが大事であって、どう使うのかは純粋な魔法技能ではないという訳だ。
「
「っ!」
十歳の時に最初に使えるようになった風の魔法のうちのひとつ。その場に留まる小さな竜巻が、この試験の場で僕が発動させた魔法だった。
それを見て息をのんだのは近くにいたちょび髭教員だけじゃない。受験生も教員も、この場の全員が言葉も出せずに驚いていた。もちろんグスタフは当然という顔で腕組みしているけど。
起こっている現象はデュエマギアでも使える程度のもの。だけどこの場にそれを笑うような素人はいない。当然、近接戦闘での受験者であってもだ。
風の属性を滞留させるレテラで竜巻状にして発生させる。それを強化してから妨害という、属性一つに制御三つの構成。やってることは魔法の竜巻を強めておいて自分で弱めるという意味のないものだけど、アピールとしてはこの上ない。
この一手で僕は少なくともこの四種のレテラを使えること、そして何より……四つのレテラを同時行使可能な魔法師――マエストロ――であることを見せつけたからこその、この空気だった。
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