第19話
グスタフの相手を務めた教員は、手の痺れと疲労が無視できなかったようで早々にどこかへ引っ込んでいった。魔法薬を使えば治せるだろうけど……、今日の分の近接戦闘の受験者は終わったようだから、それももったいないということだろうね。
という訳で今は魔法系の実力試験が進行中。といっても、今日のところは魔法で実戦形式の方を希望した受験生はいなかったみたいで、光景としてはいたって地味。
だからなのか、この場の空気が妙に浮ついているように感じる。変な熱を帯びたままというか。
「……気になる」
「気にするな」
ちらちらと向けられる視線を気にしたグスタフが、隣に立つ僕にだけ聞こえる声量で愚痴る。
だけど“あの”シェイザが噂に違わぬ実力を披露した訳で……、この場にいる受験生は十四歳の少年少女たちなんだから、こうもなるだろうさ。
ちょうど今、教員に礼を言っている少年が終えて、見る限り後は僕だけ。グスタフと二人して近接戦闘と魔法の本日のトリに指定されてしまったみたいだ。
それにしても今の少年の魔法はなかなか面白かった。位階としてはデュエマギアで、
やっていたのは属性のレテラの多重発動。
第三位階のトレマギアなら制御のレテラを二つ重ねられるようにもなるし、第四位階のマエストロともなれば制御の中でも同じレテラを重ねることすらできるようになる、といえばその難しさが伝わるだろうか。
さらにいうと、火と水が同じところにただ出現しても、火が消えてただの水になるだけだろう。しかし熱湯になっていたということは、
デュエマギアらしからぬ器用さに、十四歳の子供らしからぬ見識、そしてそれらを形にできるだけの総合的な魔法能力。……うぅん、優秀だ。僕の手駒として欲しいくらいだ。
「っ!」
「……うん?」
と思って目を細めて見ていたのが気に食わなかったのか、少年がこちらを不意に睨みつけてきた。短く雑に刈った黒髪がやけに似合うワイルドな容貌の彼は、服装からすると庶民だろう。いかにも貴族然とした僕と、厳ついグスタフが並んでいるこちらにあの視線を向けるとは、胆力があるのかただの馬鹿か……。
「プロタゴっ! このっ馬鹿! もう行くよ」
「痛って! 馬鹿はお前だニスタ! そうべしべしと叩くんじゃねぇよ!」
と、面白く思って観察を続けていると、彼が何かを口にする前に、駆け寄った少女に頭を叩かれて引きずられていってしまった。長い黒髪を横結びにした少女は少年と似た雰囲気だったし、双子か何かか? まあ、あの実力なら知識試験が多少悪くても合格するはず、そうすると未来の同級生な訳だから、話す機会くらいこの先にいくらでも作れるだろうさ。
さて、やっと僕の番が回ってくるのかな。
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