第17話
物理的にも魔法的にも非常に頑丈に造られているという演習場は、かなり大きめの体育館といった印象だ。ヴァイシャル学園が誇る施設のひとつであるここでは今、入学試験の後半部分である実力試験が実施されていた。
といっても、魔法道具や魔法薬、その他芸術品なんかで申請している受験生はそれぞれ設備のある別室にいるはず。さらにいえば、実力試験自体が数日にわたっての実施だから、今この演習場にいるのは意外と少ない人数だった。
魔法技能で申請した僕と、実戦剣技で申請したグスタフ、詳細不明だけど魔法と戦闘能力での受験生が数人ずつ。あとは試験官として教員が何人か……なんだけ、ど。一人だけ制服を着た女子学生がいる。
「…………ふふ」
「ん?」
その女子学生がこっちを見ているのに気付くと、いかにも意味深な笑みを浮かべられてしまった。なんだあいつ……?
「どうした? アル君」
「いや、なんでもないよ」
隣にいたグスタフに気にされたけど、相棒に相談しなきゃいけないようなことでもないな。
ちなみになんだあいつとは思ったものの、あれが誰かは知っている。どうしてここにいるのかがわからなかっただけだ。
あれは、キサラギ・ボーライ。ボーライ伯爵家の長子で、ゲーム『学園都市ヴァイス』で主人公入学時の三年生――つまり今は二年生、のはずだ。主人公を男で始めた際には恋人関係になることも可能な一部での人気キャラで、他の部分では不人気キャラだ。
名前からしても武士娘というコンセプトと思われる長い黒髪に凛々しい顔つき、メリハリのあるスタイルで、公平で正義感の強い性格をした生徒会長。そうした
つまりゲームの結構な部分を占める戦闘においては仲間として頼りないという意味なんだけど、別に弱いということではない。…………まあその辺は今はいいか。
「次……、グスタフ・シェイザ君!」
ここまで何人かと手合わせをしていた教員から、グスタフの名前が呼ばれた。剣や槍といった近接戦闘での今日の受験者はこれで最後のようだ。
「いってくる」
「おう、見せつけてやれ」
グスタフはいつも通りの低くて渋い声だったけど……。僕にはわかる、緊張してる。
見上げるような大男へと成長したグスタフは、この声質も相まってとても十四歳には見えない雰囲気だけど、中身は十歳の頃からあまり変わってないな。
表向きは良い子で過ごしているけど中にはクソみたいな前世の残滓が宿る僕と、武人然とした外面のわりに内面はナイーブなところがあるグスタフ。まあ、いいコンビだと思うよ実際。僕はグスタフがいないと歯止めなく堕ちてしまいそうだし、グスタフは貴族家の三男として生き抜くには頼りない。
ん? まわりがちょっとざわついているか……?
まあ、シェイザの家名は剣術の代名詞。鬼の一族とまで称される武闘派貴族だからなぁ。……だからこそ、そんなシェイザがフルト王国の闇を仕切る我がコレオ家に近い場所に置いておかれる理由については…………貴族ってのも、なかなかに怖いなという感想しかでてこない。
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