第14話
ゲーム『学園都市ヴァイス』では有用なデバフ、現実となったこの世界では希少なだけの役立たず。けど僕はゲーム以上にすごい……いや、えげつないものではないかと考えている。
まあそれがどうかは、これからすぐにわかる。
「はは……」
「へへ……」
へらへらと笑っている連中を睨みつける。子供が感情的になっているだけのように振る舞いつつ、全員の目の高さが同じであることを確認して、そこに狙いをつける。
この穴を覗き込んで僕らを煽るために集まってくれていて助かったよ、馬鹿どもめ。
「
よしっ、噛まずにスムーズに詠唱できた!
以前勉強を始めた頃に知ったけど、レテラは発動させるのに十分な魔法的能力が備わっていないとうまく認識できずに読むことができないし、素質がないと何かが書いていることに気付くことすらできなくなる。
さっき闇属性のレテラを読めたということは、もう使えるということ。そうはわかっていたけど、実際に口に出すのが初めてであれば、下手をうたないか緊張もするというものだ。
「は?」
急に静かになった中で、誰かの不思議そうな声だけが聞こえた。突然視界が塞がれると、人間というのはパニックを起こすか動けなくなるかのどちらかだ。即応できるのなんて余程の訓練を受けたプロくらい。
密猟者連中はびっくりして泣き叫ぶような情けないのはいなかったみたいだけど、訓練を受けたプロもいなかったようだ。
僕が発動したのは闇の属性を滞留させるという魔法。そして薄く広く円盤状に発動するようイメージした。つまり密猟者たち九人のちょうど目がある高さだけ、急に真っ暗にしたという訳だ。
ただの真っ暗闇。当たったところで傷はつかないし衝撃もない。ただ範囲内で視界がきかなくなるだけ。
「けど、効果は抜群だよなァ!」
俺の口角も上がらざるを得ないって訳だ。そして抑えられない高揚をそのまま解き放つ。
「
足元で炸裂した緑風が俺を穴の上、縁のところへと運んでくれる。十歳の俺が屈んでいれば、奴らの目線を覆う闇は頭の随分上にある。それを確認しながら目の前にあった密猟者の股間に全力で拳を打ち込む。
「あ……がっ!」
倒れていく男は屈めば暗くないことに気付いたはずだけど、果たしてそれを認識する余裕もないだろう。加減も躊躇もなく全力で叩き潰したからな。
これであと八人。
「へ? ……がっ!」
左右にいた密猟者のうち、音に反応したのがちょうど男っぽかったから、俺から見て右側のそいつに接近して同じ方法で潰す。
あと七人。
「あがぁぁ……」
そのすぐ隣に立っていた女密猟者が手にしていたナイフを引っ掴んで、あまり手入れはされていなさそうな刃を腹に差し込んでやった。
順調、あと六人。
「……? あっ、てめぇ!」
一番近くにいた密猟者がしゃがんでこっちを睨んでいた。ちっ、勘のいい奴……、だがその位置で助かった。
足元の手頃な石を拾い上げつつ、最速の踏み込みでそいつとの距離をゼロにする。
「ぴひゅぅ」
その勢いのままちょうどいい高さの頭部を殴り潰すと、空気の抜ける音を発しながら崩れ落ちる。
ちょっと危なくなってきたか、あと五人。
「あががが……ごっぅ!」
音から状況を察して、ついにパニックを起こしたらしい密猟者が濡らした股間に、血と脳漿まみれの石を叩きつける。
もう少しだ、あと四人。
くぅっ、滞留させている闇を維持する気力が……。頭が痛いを通り越してもうろうとしてきた。
ここからは、ちょっと確実性に欠けるやり方でも、最速で動くしかない!
「ぎょぅっ!」
石を全力で投げつけると、ちょうど密猟者の股間にヒット。もし野球がこの世界にあったとしたら、ピッチャーでもやっていけたな。
ぎりぎり……か、あと三人。
なるべく範囲を絞ったとはいえ、九人の視界を覆うような魔法は維持コストもバカにならなかったみたいだ。ここで魔法の闇が消えて、三対の目がこちらを即座に睨みつけてきた。とっさに眩しいだろうに、怯んですらくれない。
「俺……をっ、舐める、なぁっ!
「ぃっ」
「なっ」
自分でもどこに残っていたのかびっくりの気力を絞り出して放った緑光の風刃は、二人の密猟者の首を狙い違わずに通過していった。一発で二人仕留められたのは、狙ったとはいえはっきりいってまぐれだけど……ここまでだ。
「ぅ……ぁ……くそ………………」
体の感覚が急激に鈍くなって、視界は暗くなる。おそらくその場に倒れたんだろうけど、それも確信がない。ただ、耳だけはまだ辛うじて聞こえている。
「ちぃっ! ガキがっ! やってくれやがったなぁ!」
どすどすと足音が近づいてくる。もう耳も段々と……。……? 何か鈍い音がしたか……?
「ぼ、僕だってっ、
グスタフの声が近くで聞こえたような気がした。
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