第13話
「うっぐ」
「わあっ」
ちょっとした衝撃で、僕らが落下したことに気付く。
「げほっ、ごほっ、土煙が……」
「目が痛いよぅ」
おかしいな……、僕もグスタフも無事だ。いや、助かって良かったんだけど。
おそらく地面が崩落したようだけど、生き埋めになることもなく、今こうして五体満足だ。打ったお尻は痛いけど……。
「グスタフっ、早く行こう。這い上がらないと」
「……」
とはいえ、状況は最悪だ。多分だけど土煙の向こうはすぐに壁。つまりは僕らの踏み込んだごく狭い範囲だけが崩れたらしい。
それが何を意味するかというと、密猟者たちはそのまま追ってきているはずということだ。
だというのに、グスタフが動かない。黙ってしまって、どこか一点をじっと見ている。怪我をした様子ではないけど、衝撃にもうろうとしているのか?
「アル君、あれ……」
「グスタフ! 今は急がないと」
なんだこいつ、こんな時に……っ。
「アル君っ!」
もう一度、グスタフは僕の名前を呼んだ。いや、叫んだといった方が正しいかもしれない。基本的には僕の顔色を窺って行動するグスタフからすると、苛立つ僕にこうした行動をとるのは珍しい。
気になって、一瞬だけ状況も忘れて僕もグスタフの視線を追う。
「レテラだ」
「えっ! ただの古文書っぽい石板じゃないの? 真ん中の空白がどうしても気になるって言いたかったんだけど……」
グスタフには見えていないらしい石板の真ん中。それは間違いなくレテラだった。古臭い書体で崩れた地下の壁に刻み込まれたそれは、闇の属性を示す魔法記号だ。
「さっきあいつらが言ってた“偶然見つけたアレ”ってこれのことか!? 役に立たないって……いや、これは……っ」
一般的な魔法の教本にはただ希少であるとしか記載されていない闇の属性。光属性のように暗闇で光源となる訳でなく、地水火風属性のように直接的な攻撃力がある訳でもない。あの密猟者の魔法使いが言っていたことが、普通は正解だ。
けど僕は知っている。ゲーム『学園都市ヴァイス』内で、デバフ魔法は十二分に実戦的だということを。
先に見つけて不意打ちするはずの密猟者には逆に見つけられて取り囲まれ、何とか逃げ出そうとした矢先に足元が崩れて止められた。最悪に最悪が重なったこの絶望的な状況だけど……、もしかしたら打開への希望が見えてきたかもしれない。
「あの石板を隠そうと覆っといたのが、こんな形で役に立つとはなぁ」
「あいつは?」
「ダメだ、まだ伸びてる。こいつらにちょっとはお仕置きしとかんと、起きたら暴れるぞあいつ」
「ひっひひ、かわいそうにぃ」
あの下卑た連中の声だ。隣からはグスタフが「ひぐっ」と喉を鳴らす音が聞こえた。
「僕が良いって言うまで、動くなよ。じっとしてろ」
「え? う、うん」
グスタフが頷いたのを確認してから、深く呼吸をする。……うん、大丈夫そう。何とかもう少しだけは気力と体力が持ちそうだ。
「おい、ガキども、上がってこい。また土がブーツに入るのは嫌なんだよ」
「いうこと聞いたら、優しくしてやるぜぇ?」
本当に不快な連中だ。さっきあの魔法使い風の女を殴った拳が再び熱を持ち始めるのを感じる。
「今上がっていってやるよ!」
「へっへへ、本気かこいつ」
まだ僕を舐めて油断している。さすがにチャンスはあとこの一回だけだろう。今読めた闇属性のレテラと、僕が今日までに覚えた魔法。これで何ともならなかったらゲームオーバーだ。
ゲーム『学園都市ヴァイス』の知識を“思い出した”僕にとって、それが今のこの現実にどれくらい通用するか、命を掛け金にした大一番って訳だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます