第12話

 「くそっ」

 「ど、どど、どうしようアル君」

 

 焦りが思わず口から零れた。グスタフも“この年齢の時はまだ”役に立たない。

 

 「なんだぁ、あいつはすっ転びでもしたのかぁ?」

 「へへへ……」

 

 腹は立つけど相手がこっちを完全に舐めているのが唯一の救いか。そこで伸びてる密猟者のことも、まさか僕が魔法で倒しただなんて想像もしてないみたいだ。

 

 「おい、偶然見つけたっつってたアレ、こいつらで試してみろよ」

 「だからあの属性は何の役にも立たないっていったでしょ。後で写して好事家に売るくらいよ」

 

 魔法使いっぽい服装――武器の類を手にしておらず、防具も最低限――をしている女が、仲間たちからからかうようにいわれてむすっとしている。

 何の話だ……、属性ってもしかしてレテラの話なのか……? けどその話が何の役に立つ訳でもない。

 隙を見て逃げる以外に選択肢なんてないけど……、まずは交渉するフリでもしてみるか。馬鹿で世間知らずな貴族子弟と思われる方がいきなり攻撃するよりは可能性がありそうだし。

 

 「見るからに貴族か大商人のガキって感じだなぁ」

 「危ないところに子供だけで来ちゃだめって教わらなかったんでちゅか~?」

 「俺らが叱ってやらにゃあいかんな」

 「ははは、身代金で儲けさせてもらうんだから、礼をいうべきじゃないか?」

 「違ぇねぇな! ははっ!」

 

 ………………。

 

 「アル君。その……えと……?」

 

 やめろグスタフ、俺の袖を引っ張るな、話しかけるな。反射的に殴っちまいそうになる。

 確かに今の俺は十歳で、世間知らずな貴族のガキだ。けどなぁ、俺は……

 

 「舐められんのが、いっちゃん我慢できねぇんだよっ!! ヴェントォッ!」

 

 感情のままに、自分の足元で風属性のレテラを単独で発動させる。何の制御もなく放たれた緑風が爆ぜる反動で、俺は密猟者たちの目では捉えられないほどの速度で突っ込む。

 

 「おらぁっ!」

 「はあ?」

 

 俺がちょうど正面にいた魔法使いっぽい女を殴り倒した鈍い音を聞いて、近くに立っていた別の密猟者が不思議そうな声をだした。

 あっ、やっちまった。ついカッとなって……。

 

 「っの、ガキぃ!」

 「ヴェント滞留スタレヴェント滞留スタレ!」

 

 僕が感情任せに一人を殴り倒したことに気付いた密猟者たちが、怒りを露わにした。だけど逃げられるとしたらもうこのタイミングしかないと、咄嗟に左右で留まる竜巻を発生させる。

 っ! 頭が割れそうに痛い!

 さすがに気力を消費しすぎたみたいだけど、止まって休むのは後だ。

 

 「はあ、はあ……っ、グスタフっ!」

 「うん!」

 

 さっき突っ込んだところを走り戻ると、意図を汲んだグスタフも反転してついてくる。ここ一番での肝の座り方はさすがか。

 ちょうど囲んでいた密猟者たちは僕が発生させた魔法の竜巻に体勢を崩されたり、巻き上がった砂で目を塞がれたりして、動けなくなっている。結果論もいいところだけど、何も話さずにいきなり殴ったのが、うまく相手を動揺させられたらしい。

 

 ――おいっ待てや、コラぁ!

 ――ぶっ殺す!

 

 少し後ろから怒鳴り声が多数聞こえる。もう立ち直って追いかけてきているらしい。

 

 「グスタフっ……はあ、ふう、大丈夫かっ?」

 「う、うん、なんとか」

 

 まだ息も切れていないグスタフはやっぱり、体力があるな。僕の方が不安要素だけど、このまま逃げ切れるかどうかは、よく言って半々くらいか……。

 そんな風に考えが逸れたのが良くなかったのかもしれない。グスタフの方もさすがに周囲や足元まで気にするほど余裕はなかったようだ。

 

 「「あっ!」」

 

 二人そろって声を上げ、すがががっと激しい音に呑み込まれるとともに、体が突然の浮遊感に支配されたのだった。

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