第11話
「も、もうさすがに帰ろう? アル君」
「大丈夫だって、グスタフも見ただろ、僕の魔法」
さすがに太陽が天頂を過ぎたあたりで、グスタフの声にも真剣な色が宿り始めた。万が一にでも森の中で日が暮れるようなことになれば、デュエマギア程度だと一時間と持たないだろう。
それはわかっているから、僕としても内心では帰る判断に傾き始めている。一応、グスタフに対しては、弱い態度を見せないために、強がって振る舞っているけど。
「おい何やってんだガキ。誰だよお前らは?」
「「……あ」」
不意に茂みから出てきた全身緑っぽい服装の男に凄まれる。
まずい……、密猟者だ、こいつ。こっちから見つけてあわよくば不意打ちって作戦だったのに、他に何人がどんな装備でいるかもわからない接敵をしてしまった。
「僕はシェイザ家のグスタフ。こっちはコレオ家の子弟だよ」
「グスタフっ!」
こんな時にとぼけた部分を発揮してくれやがったグスタフに、僕は思わず怒鳴りかかった。けどもう後の祭りだ。
ただしこの行動がどう転ぶかは二つに一つ。この密猟者がパラディファミリーの傘下組織に属しているなら、コレオ家の名を聞いておいそれと手はだせないはず。そうでなければ、のこのこ現れた貴族の子供なんて利用価値のある獲物くらいにしか見えないだろう。
「……へえ」
密猟者が汚い髭面の口元を大きく歪ませて笑みを浮かべた。あ、まずい、これは後者の方、こういう種類の人間が儲けの匂いを嗅ぎ取った時にする顔だ。
「
「うおおおおおおおっ! ――ぐっ」
さすがに焦って呂律が怪しかったけど、魔法は意図した通りに発動した。
周囲の木々の葉や枝が猛烈にかき乱される騒音とともに、薄い緑色に発光した風が小さな竜巻のように立ち昇る。そんな物が足元から突如発生したことで、密猟者は体勢を保てずに吹き飛んで転んだ。さらに運が良かったことに、倒れた先で岩に後頭部をぶつけて気を失っていた。
「あ、アル君……、他にもレテラを使えるの……?」
「そんなことはいいから、逃げるぞグスタフ!」
くそっ、このレテラも不意打ちでかっこよく披露して、グスタフの心をさらに掴むつもりだったのに! 色々と台無しだ!
「な、なんかさっきから様子が違うよ? アル君……」
「だからそんなことはいいって!」
やや強引にでも動かそうとグスタフの手を掴んだけど……遅かった。危機感のないグスタフを殴ってでも、もっと早く走り出すべきだった!
「おい、そいつに何した……?」
「随分と良い身なりのガキどもじゃねぇの」
「へ、へへ……」
ぞろぞろと周囲の茂みをかき分けて現れたのは、さっきの密猟者の仲間と思われる連中。男女比は半々で合計十人ほど、魔力があるこの世界では見た目で強さが測りにくいけど、見るからに魔法使いっぽいのは一人だけ。
そして全員もれなく森の景色に馴染む緑色の服装に、いやらしい笑みの顔が乗っかっている。子供相手だからってへらへらしているような小物連中だけど……、実際こっちは十歳の子供だからピンチには違いない。
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