第10話

 「ヴェント放出パルティ!」

 

 僕が突き出した手の先から薄緑に発光した風が刃となって飛翔していき、大型犬くらいのでかいウサギを切り刻む。

 

 「す、すごいよアル君! 僕と同い年なのにデュエマギアだなんて!」

 

 絶命すると同時に霞となって消えていったでかいウサギはビッグラビットという魔獣で、迷いの森の浅い所にはほぼこいつしかいない。迷いの森なんて物騒な名前がついているわりに、この辺までは普通に地元の猟師の狩場でしかない。

 ただ、弱いといってもビッグラビットも魔獣だ。跳び上がっての蹴りは脅威だから、弓矢みたいな遠距離武器か、魔法が扱えないと安全には狩れない。

 

 「そうだろ? ふふん!」

 

 魔法を褒められて気分も良くなる。こうしてグスタフの子供心に好印象を刻むことができれば、とりあえず第一目標は達成だ。

 

 「あ、で、でも奥の方は危ないからだめだよ」

 「グスタフは臆病だな」

 

 と素知らぬフリをしているけど、これはグスタフが正解。迷いの森の密猟者は噂ではなく実在しているし、あわよくばそのイベントを起こしてしまおうというのが第二目標だ。

 密猟者が狙っているのはアロマスクィレルと呼ばれるリス型魔獣で、尻尾からいい香りを放出する面白い生き物。その香りはリラックス効果があるということで金持ちに人気があるんだけど、かつて乱獲されたことで迷いの森の魔獣が凶暴化して大被害を出したことがある。つまり、アロマスクィレルが魔獣への抑止効果を担っていたということで、今では厳に禁猟とされている。

 

 「あ、アル君~!」

 「こっちだ!」

 

 ずんずんと森の奥へと入っていく。困った顔のグスタフも何だかんだとついてきている。

 やっぱり苦労してデュエマギアとなったことは大きい。家庭教師の魔法師もめちゃくちゃ驚いていたけど、普通は学園入学前の子供ならウノマギアでも十分エリートっていえる。だからこそ、さっき目の前で力を見せたことで、グスタフから少なくともこれくらいには信頼を得たということだ。

 

 まあそう都合よく密猟者となんて出くわさないか、向こうだって隠れて活動しているんだろうし。

 おっ、あれはハングリーウルフ。ビッグラビットよりは怖ろしい魔獣だけど、あれだって群れじゃなきゃ問題じゃない。

 

 「ヴェント放出パルティ!」

 

 再び魔法の風刃を魔獣に叩きつけると、今度もあっさりと仕留められる。ただ今回は二体いる。

 

 グアァウ!

 「ひっ!」

 

 後ろでグスタフが身を縮めて怯えている。ハングリーウルフは鋭い牙を剥き出しにして威嚇してきているから、わかりやすく恐ろしい見た目の魔獣だ。それに相対すれば怯えて当然なのかもしれないけど……っ!

 

 「ヴェント放出パルティ!」

 

 ちょうど駆け出そうとしたハングリーウルフの鼻先に緑光の風刃が突き刺さり、頭の半分を吹き飛ばしてそのまま全身も霞と消えた。

 

 「あんなに怖い魔獣だったのに、平然と魔法を連発するなんて……、あ、アル君?」

 「おう?」

 「あ、い、いや、なんでも……」

 

 グスタフとしては、僕が僕かを疑わしく思ったんだろうけど、わからないよね、この世界の出来事をゲーム『学園都市ヴァイス』として遊んでいた前世の記憶を思い出した、だなんて。説明する気も無いし。

 

 「戦いではビビった方が負けるんだよ、グスタフ。さっきのハングリーウルフも一体目がやられて脅威を感じたから威嚇なんてして隙をさらしたんだ。その間に突っ込んできてれば良かったのに」

 「そ、そう……ははは」

 

 グスタフは露骨に愛想笑いを浮かべている。僕の現状に尊敬とかじゃなくて畏怖を感じている様子だけど、まあこれはこれでいい。とにかく僕が五年後に向けて欲しいのはお友達じゃなくて仲間だ。あるいは最低でも僕の死亡フラグから外れてくれればいいわけだから、裏切って敵に回る気が無くなるならそれはそれで。

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